研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01382
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 寿郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80323020)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒストン脱メチル化 / アドレナリン刺激 / プロテインキナーゼA / ベージュ化 / シグナル感知 / エピゲノム / 細胞記憶 |
研究実績の概要 |
ヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aがアドレナリン刺激でリン酸化される265番目のセリン残基をアラニンに変異をいれたノックインマウス(S265Aノックイン)を樹立した。このマウスは急性な寒冷環境下におかれると、体温の維持ができず野生型マウス (WTマウス) とくらべ、低体温となった。寒冷刺激に伴う熱産生遺伝子の発現上昇がほぼ完ぺきに抑えられており、寒冷刺激誘導性の転写制御にJMJD1AのS265のリン酸化が必須であることが示された。 野生型マウスは 1週間の寒冷刺激により、白色脂肪組織のベージュ化が認められた。一方、JMJD1Aの遺伝子欠損マウス(JMJD1A‐KO)は、これが約50%程度に抑制され、JMJD1Aのベージュ化への寄与が新たに発見された。白色脂肪組織のヒストンH3リジン9番目のジメチル(H3K9me2)(抑制マーク)は熱産生遺伝子の領域で低下し、これにともない遺伝子発現は上昇した。一週間の寒冷刺激によりJMJD1AのノックアウトマウスではH3K9の低下がWTマウスと比べ抑制されており、JMJD1Aを介したH3K9me2の脱メチル化であることが明らかとなった。また、一週間寒冷刺激により、WTマウスでは、アドレナリン刺激による個体レベルでの酸素消費量は、亢進するが、ノックインマウスでは減弱していた。電子顕微鏡による組織学的解析ではノックインマウスのミトコンドリアの数の減少、大きさなどの質の変化が認められた。ノックインマウスでこれらの変化が認められることからこの脱メチル化変化は寒冷刺激による寒冷感知機構すなわちS265のリン酸化に依存することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すべての必要なノックインマウスも順調に作製され、トランスクリプトームの発現プロファイルもRNAseqにて把握できている。
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今後の研究の推進方策 |
この仮説を検証するために寒冷刺激センサーとなるS265のリン酸化の寄与をS265Aのノックインマウスから解析する。リン酸化されないことがベージュ化抑制につながるのかを解析する。そして、JMJD1Aのメチル化変化が必要か否かを解析する。このためには、組織学的解析、遺伝子発現解析、生理学解析(代謝ケージでの解析など)を行う。ベージュ化がJMJD1Aのリン酸化依存的かの解析のためこのノックインマウスから初代培養の白色脂肪細胞を単離培養し解析を行う。ベージュ化にJMJD1Aのドメイン、すなわち、寒冷感知ドメイン(S265)と酵素活性ドメインがどう関与するかの分子機構を解析する。プロテオーム解析からリン酸化依存的に形成されるタンパク質複合体を解析する。② ベージュ化に白色脂肪組織のH3K9me2 の脱メチル化がともなうのか、また、さらにJMJD1Aの H3K9me2 の脱メチル化能力が必要かを解析する。このために脱メチル化能が欠落したH1120Y変異体を用いる。そしてS265のリン酸化依存的なのかを解析するためにリン酸化疑似JMJD1A(S265D)とともにこれに脱メチル化能を欠損させた(S265D-H1120Y)の変異体を発現させ、RNAseqを用いた網羅的遺伝子発現解析を行う。以上を解析し、ベージュ化にシグナル感知(1st step)とともに脱メチル化2nd stepが必要か否かを解析する。
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