体温調節に関与する神経回路に比べ、アストロサイト回路の研究は少ない。我々は、最近、intersectional approachを用い、特定脳領域のアストロサイトのみの細胞内Ca2+濃度を人工リガンドで増加できるツールを開発した。このツールを用い、体温調節に関与するアストロサイトの局在を解析した。視索前野・視床下部背内側部と中隔のアストロサイトのみ(Nkx2.1-Cre)、視床より尾側のアストロサイト(視索前野のアストロサイトは含まないが視床下部背内側部・淡蒼縫線核・脊髄のアストロサイトは含む、foxb1-Cre)のみに、Creが発現しているCreラインとMlc1-tTAマウス (アストロサイト特異的にtTAを発現)及びtetO-FLEX-hM3Dqマウスを交配し、脳部位特異的にhM3Dqをアストロサイトに発現させるマウスを作製した。両マウスの系統にsalineおよびCNO(3mg/kg)を腹腔投与し、投与後の体温変化を測定した。Nkx2.1-Cre/Mlc1-tTA/tetO-FLEX-hM3DqマウスにCNOを投与した時にのみ、体温が約1.5度上昇した。これらの結果は、視索前野(POA)のアストロサイトの活性化が、体温の上昇をもたらすことを示している。さらに、体温上昇を起こしたマウス脳の組織学的解析により、アストロサイトのCa2+濃度上昇によりPOAの抑制性神経細胞および吻側淡蒼縫線核(rRPa)の神経細胞が活性化されていることを見出した。また、これらの領域は、寒冷環境に暴露したマウスにおいて活性化される神経細胞の局在する領域と一致した。本研究の結果は、アストロサイトを介した体温調節の新たなメカニズムの存在を示唆するとともに、体温上昇を司るPOAの神経細胞を同定する大きな足がかりとなる。
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