研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01386
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 貴之 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30303845)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 薬理学 / 末梢循環障害 / 異常感覚 / 冷感受性 / TRPA1 / 末梢温低下 / オキサリプラチン / プロリン水酸化酵素 |
研究実績の概要 |
白金系抗がん剤オキサリプラチンは、副作用として、ほぼ全ての患者で冷刺激で誘発されるしびれや痛みなどの急性末梢神経障害を誘発する。この分子機構として、オキサリプラチンの代謝物oxalateがプロリン水酸化酵素(PHD)を直接抑制することにより、TRPA1 N末端Pro394の水酸化が抑制され、その結果、活性酸素種(ROS)に対するTRPA1の感受性が増強することを明らかにした。さらに、通常は冷感受性を示さないhTRPA1が、オキサリプラチン、PHD阻害薬あるいはPro394の変異によりPro水酸化が抑制されると、冷刺激(25℃→16℃)に対して感受性を示すことを見出した。さらに、この応答は冷刺激によりミトコンドリアから産生されたROSを過敏化したhTRPA1が感受するという間接的な経路であり、これまで長年にわたり議論されてきたhTRPA1の冷感受性の分子機構について初めて明らかにできた。 また、末梢循環障害動物モデルを作成するため、大腿動脈結紮による後肢虚血モデル、ストレプトゾトシン誘発糖尿病性神経障害モデル、オキサリプラチン長期反復投与による抗がん剤末梢神経障害モデルを作製し、いずれも後肢の血流量が持続的に低下することを確認することを確認し、冷過敏応答や後肢虚血モデルでは間欠跛行様の行動(歩行障害)が認められることを確認した。また、糖尿病性神経障害モデルおよび後肢虚血モデルにおける冷過敏応答はTRPA1遺伝子欠損マウスで消失すること、TRPA1アゴニストの足底内投与による疼痛様行動が増強されること、末梢循環改善薬の投与によりこれらの異常感覚が改善されること、一方、後根神経節におけるTRPA1 mRNA発現量に変化は見られないことを明らかにした。これらの結果から、末梢循環障害時の冷過敏応答には、おそらく低酸素負荷によるPHD抑制を介したTRPA1過敏化が関与すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に予定していた研究計画については概ね検討することができた。 特にオキサリプラチンによる急性末梢神経障害の分子機構解析から、長年議論が分かれていたhTRPA1の冷感受性について、hTRPA1の冷感受性機構がROSを介した間接的経路であることを発見できたことは、チャネル分子が直接温度変化を感知するのではなく、温度変化によって生じた細胞内での変化をイオンチャネルが捉えるという間接的な温度感受のメカニズムを提唱したもので、本研究計画で予定していた以上の成果であると考える。 また、末梢循環障害動物モデルの作成も順調に進んでおり、概ね計画通りであるが、これらのモデルで誘発される冷過敏応答が予想以上に検出しにくい上、短期間しか表れず、また、感覚鈍磨や運動障害といった末梢神経障害の症状が捉えにくいため、今後の研究の展開に影響を与えかねない。
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今後の研究の推進方策 |
TRPA1の冷感受性機構についてさらに詳細に解析するため、現在、複数のTRPA1変異体を作成しており、当初予定通り、次年度の研究計画を実施できる予定である。 末梢循環障害動物モデルについても、予想以上に確立が難しいことを実感しているが、現在、改良を続けており、次年度の研究計画を予定通りに実施したいと考えている。 他の研究計画についても概ね順調に進行していることから、今後も当初計画通りに研究を実施する。
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備考 |
Nat Commun 7:12840 (2016):マスコミ報道(京都新聞9月16日25面、産経新聞9月21日23面、朝日新聞10月13日19面 他)
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