研究実績の概要 |
遺伝子にコードされた温度プローブタンパク質を開発するために、最初に我々はこれまで開発されている蛍光タンパク質の蛍光強度の温度依存性を測定した。その結果、蛍光タンパク質によって蛍光強度の温度依存性が異なることが分かった。測定した蛍光タンパク質の中で最も温度依存性が大きい蛍光タンパク質Siriusと小さい蛍光タンパク質mT-Sapphireの精製タンパク質溶液を等モルで混ぜ、5℃から50℃まで溶液の温度を変えて蛍光スペクトルを測定し、2つの蛍光強度比(レシオ)の温度依存性を測定したところ、レシオ値が温度によって変化することが分かった。そして、我々はこのSiriusとmT-Sapphireを組み合わせた温度測定系をgTEMP(genetically encoded ratiometric fluorescent TEMPerature indicator)と名付けた。次にgTEMPを培養細胞に発現させ、細胞内でのgTEMPの有用性を検証した。細胞を培養している培地の温度を35℃から40℃へ徐々に上昇させたところ、gTEMPのレシオ値が温度によって上昇することが確認できた。また、波長1,462 nmの赤外レーザーを細胞に照射したときの細胞内温度変化を約50ミリ秒の時間分解能でイメージングすることにも成功した。さらに、これまでの細胞内温度測定の研究で報告されている細胞の核が細胞質に比べて温度が高いことや、ミトコンドリア内膜のプロトン濃度勾配の脱共役剤を添加した時のミトコンドリア内の温度上昇についてもgTEMPを用いて観測できた。最後にgTEMPを用いたin vivo温度イメージングが可能であることを示すために、メダカ初期胚の発生過程の温度観察にも挑戦した。メダカ受精卵にgTEMPのmRNAをインジェクションすることで、その1日後から約15時間にわたる温度イメージングに成功した。
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