公募研究
プロリン異性化酵素は、ターゲット蛋白のプロリンとその前のアミノ酸とのペプチド結合をtrans formにすることで、タンパクの機能や細胞内分布等を変化させる酵素の総称である。その中で、Pin1は、プロリンの前のアミノ酸がリン酸化セリンあるいはリン酸化トレオニンとなる配列(pSer/Thr-Pro containing motif)に結合する特徴を有する。我々は、Pin1と代謝調節との関連について研究を進める中で、脂肪細胞からの熱産生に着目している。脂肪細胞は、従来は、栄養の貯蔵を主な役割とする白色脂肪細胞と、熱産生に関わる褐色脂肪細胞の2種類に大別されていたが、両者は異なった前駆細胞に由来している。我々は、Pin1がベージュ細胞への分化や熱産生に関わっている可能性を推測し、マウスに4度で24時間の寒冷刺激を与えてみると、興味深いことに、脂肪細胞におけるPin1タンパクの発現が劇的に増加することを見出した。また、寒冷刺激によって、脂肪細胞では熱産生に関わるUncoupling protein-1 (UCP-1)発現量が増加するが、Pin1 KOマウスでは体温低下が軽度で、寒冷刺激によるUCP-1の発現増加量が顕著に高いことも見出された。これらの結果は、哺乳類における温度調節においてPin1が重要な役割を果たしていることを示している。脂肪細胞からの熱産生はUCP1の発現量に依存しているため、Pin1がUCP1の発現調節に関与するメカニズムを解明する。さらに、脂肪組織からの熱産生には、脱共役タンパク質(UCP-1)の発現量およびUCP-1を活性化する遊離脂肪酸の生成が重要である。この脂肪酸生成へのPin1の役割についても解明する。
2: おおむね順調に進展している
脂肪特異的Pin1 KOマウスは高脂肪食負荷に対して高い抵抗性を示すとともに、低温環境下での体温低下が少ないことを見出した。これは、熱産生に関わるUCP1の発現量が、脂肪特異的Pin1 KOマウスで非常に増加しているためであった。また、UCP1の発現調節に関わっているPRDM16にPin1が結合し、その分解を促進していることも突き止めた。従って、実験は順調に進行している。
(1)Pin1を介した熱産生制御と肥満との関係解明:脂肪特異的Pin1 KOマウスは高脂肪食負荷に対して高い抵抗性を示すが、Pin1は内臓脂肪の分化にも影響するため、熱産生と肥満との関係を明らかにするうえで、最適とはいえない。そこで、次の2通りの方法でPin1を介した熱産生抑制と肥満との関係を評価する。(2)温度変化によって変化するPin1標的タンパクの網羅的同定:Pin1のWWドメインは、温度変化によって立体構造に変化が生じる可能性が報告されている。そこで、温度変化によるPin1結合タンパクの変化は、まず、Pin1による代謝等の機能が認められる脂肪細胞に関して行い、順次、重要性が高いと考えられる臓器に進めていく。(3)温度依存性のPin1タンパク量変化のメカニズムの解明:上記のように高脂肪食負荷や長時間寒冷刺激時にはPin1の発現が増加するが、mRNAレベルでは変化が認められないため、我々はPin1の分解が抑制されるために、Pin1の発現が増加すると推測している。
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