研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01393
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井藤 彰 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60345915)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 磁性ナノ粒子 / フェリチン / 合成生物学 / ハイパーサーミア / HSPプロモーター |
研究実績の概要 |
磁性ナノ粒子は、磁石に引き寄せられる性質のみならず、MRIにおける造影効果や、交流磁場中で発熱する特性をもつ。我々は、酸化鉄の10 nmのマグネタイト粒子の表面を様々なバイオマテリアルで修飾することで、標的細胞指向型の機能性磁性ナノ粒子を開発してきた。この技術により、外部からの交流磁場照射によって、細胞を特異的に加温することに成功している。本研究では、1細胞から組織、さらには生体内局所加温が可能な本技術を用いて、温度生物学における加温制御技術を構築する。 H28年度は、申請書に従って、以下の通り研究を進めた。方法論として、合成生物学的アプローチを導入して、レポーター遺伝子の発現を指標に細胞の熱ストレスを解析するシステムの構築を行った。HSP70B’プロモーターとTet-Offシステムの融合により構築した熱誘導型人工プロモーターは、熱ショックがかかるとポジティブフィードバックシステムにより、EGFPが発現し続けることで、温熱ストレスを被った履歴のある細胞が可視的に判別することができた。また、この細胞に機能性磁性ナノ粒子を取り込ませて、交流磁場を照射すると、培地の温度上昇は見られないが、遺伝子発現することが分かった。このことは、細胞内局所における磁性ナノ粒子の発熱によって、HSP70B’プロモーターが駆動することで、EGFPの遺伝子発現がみられたと考えられる。また、磁性ナノ粒子を合成生物学的アプローチで細胞内に生産させる方法を検討した。HeLa細胞にフェリチン遺伝子を導入して磁性ナノ粒子を細胞内で形成させることによって、細胞の磁気分離が可能となり、さらにMRIの造影効果や交流磁場による発熱が得られることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成プロモーターの遺伝子発現プロファイル解析およびフェリチン遺伝子による細胞磁気標識の検討はかなり順調に進んだ。一方で、リアルタイムで磁性ナノ粒子の発熱を観察するための装置開発がやや遅れているため。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度も申請書の研究計画に従って、精力的に研究を進める。1)熱ストレス応答を可視化できる評価系の構築については、現状の遺伝子回路では100%の遺伝子導入細胞で熱ショックによる遺伝子発現が起こらないことも考えられるので、改良型の遺伝子発現システムを搭載した細胞の樹立も同時に行い、遺伝子発現誘導プロファイルを調べる。2)フェリチン遺伝子を用いたオルガネラ特異的発熱技術の開発については、引き続き、単一細胞でのフェリチンを介した熱誘導型遺伝子発現システムの開発を行うとともに、フェリチン遺伝子に核やミトコンドリア移行シグナル配列を導入し、磁場照射によるオルガネラ特異的発熱技術を確立する。3)磁性ナノ粒子の発熱をリアルタイムで観察できるLive cell imaging systemの構築については、顕微鏡観察下で使用可能な磁場発生装置の開発を続けると共に、培養細胞に交流磁場を照射して発熱させ、細胞内におけるナノ蛍光温度プローブの蛍光顕微鏡画像を捉える技術を確立する。これらの研究を行うことで、磁性ナノテクノロジーによる細胞内局所加温技術を完成させる。
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