研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01394
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
野村 真 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10323007)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 温度生物学 / 胚発生 / 羊膜類 / 神経幹細胞 |
研究実績の概要 |
胚発生のプロセスは胚体外の温度環境に強く依存している。内温性動物である哺乳類や鳥類胚の発生至適温度は37度前後であり、これは妊娠中あるいは抱卵中の母体の体温と一致する。一方、外温性動物である爬虫類胚の多くは30度前後の至適温度で発生プロセスが進行し、これは生息環境の外気温と一致している。いずれの動物においても、至適温度の範囲内では発生速度は温度に依存して変化するが、耐性温度限界を超えると発生プロセスは急速に停止する。このような生物固有の至適発生温度、さらにその限界値を決定している分子機構については未解明であり、特に脊椎動物の胚発生過程と胚体外温度との関連はほとんど解析されていない。 こうした問題にとりくむため、本研究では胚体外温度の変化が羊膜類(哺乳類、爬虫類、鳥類)の中枢神経系の発生に及ぼす影響についての解析を行った。本年度は外温性動物である爬虫類と内温性動物である鳥類の胚を異なる温度で培養した際の、神経幹・前駆細胞の増殖と分化率を測定した。その結果、爬虫類胚の神経幹・前駆細胞は胚体外温度変化に対して抵抗性を示し、一定の増殖・分化率を保持していた。一方、鳥類胚の神経幹・前駆細胞の増殖・分化率は胚体外温度に大きく依存しており、特に低温での増殖・分化率が有意に減少した。さらに、鳥類神経幹・前駆細胞を異なる温度で培養するとNotchシグナル活性が大きく変化することを発見した。こうした結果より、外温性羊膜類の胚発生は温度変化に補償性を持つが、内温性動物の胚はこの補償性が低いことが推測された、さらに、こうした胚発生の温度補償性の一部はNotchシグナルによって制御されている可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外温性動物と内温性動物の胚発生を異なる温度で進行させた細胞動態は未知であったが、本年度の研究によりそれぞれの動物系統において特異的な細胞応答を同定できており、これは今後の研究を推進する上で大きな知見と言える。さらに、内温性動物の神経幹・前駆細胞の温度依存性がNotchシグナルによって仲介されている可能性を見出すことができており、胚の温度補償性を担う具体的なメカニズムの候補を絞りこむことに成功している。こうした進展の背景として、非哺乳類の神経幹・前駆細胞の体外培養(ニューロスフェア法)における遺伝子導入系を確立できたことも大きな理由としてあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
1) Notchシグナルの活性化は、温度変化に伴い幾つかの補償経路が作動することが知られている。特に高温下ではリガンドのDeltaを介した経路が、一方低温下ではリガンド非依存的なエンドサイトーシス経路が活性化され、胚の発生至適温度の幅を広げている。そこで、外温性動物と内温性動物胚の神経幹細胞におけるDeltaリガンドを介したNotch経路の活性化、およびDeltex によるエンドサイトーシス経路について、異なる温度条件下で比較検討を行う。 2) 一般的に胚体外温度が変化すると、細胞内で熱ショック応答遺伝子の発現が誘導される。そこで、こうした遺伝子群の中でも代表的なHSP遺伝子とその発現誘導に関わるHSF-1に着目し、様々な羊膜類の神経幹細胞におけるこれらの熱ショック応答遺伝子の発現をRT-PCRやウェスタンブロット法で解析する。また、HSPプロモーターを持つリポーターベクターを神経幹細胞に導入し、ルシフェラーゼアッセイによるプロモーター活性を測定し種間比較を行う。 3) 胚体外の温度変化によって発現が誘導・変動する遺伝子を網羅的に解析するため、様々な温度条件で培養された羊膜類神経幹細胞からRNA を抽出し次世代シーケンサーを用いたRNAシーケンシングを行う。得られた転写産物情報の種間比較を行い、種間での発生至適温度条件内あるいは耐性温度を超えた条件でどのような遺伝子が発現しているかを同定する。 4) HSP、HSF-1を含む熱ショック応答遺伝子の機能改変、およびDeltex依存的エンドサイトーシス経路の機能亢進によるNotchシグナルの活性化により、様々な羊膜類胚の神経幹細胞の至適発生温度が変更を試みる。特に、哺乳類、鳥類の神経幹細胞のより低温条件下での発生プロセスの進行が可能かどうか、あるいは外温性動物の発生速度を内温性動物と同様な速度まで亢進できるかどうかを検証する。
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