公募研究
多くの哺乳類において、精細胞はその発生課程で体細胞より2℃から7℃温度の低い条件下ではじめて正常な分化及び増殖をすることが知られている。哺乳類において腹腔内に精巣が留まる停留精巣では、多くの動物で陰嚢と比較し精巣温度の上昇によるストレスのため、精子形成異常を示すと考えられているが、その詳細な仕組みは不明である。一方、ゾウや単孔類の精巣は停留精巣であるにも関わらず、正常な精子形成を示す特異的な動物である。今迄にゾウの精細胞及び体細胞への熱ストレスの影響を検討するため、ゾウの精巣組織断片の培養系及びゾウの初代繊維芽細胞の培養下で人為的な熱ストレス存在下での熱ストレス関連蛋白質の検討を行い、ゾウ精巣では、他の動物とは異なる仕組みにより精細胞が保護されている可能性、増殖と分化誘導の可能性を示して来た。今回、今迄の解析で得られた人為的な熱ストレス下で他の動物と異なる発現を行う熱ストレス関連蛋白質に注目し、通常のゾウ精巣での発現を解析した。解析の結果、人為的な熱ストレス下ではなくとも、人為的熱ストレスで誘導可能な熱ストレス蛋白質をゾウ精巣では体内で通常に発現しており、これらの熱ストレス蛋白質の発現動態は、ゾウ精巣では他の動物と比較して局在や発現量が異なる事が明らかとなった。特に、HSP90Aはゾウ精巣組織培養下での人為的な熱ストレスでは一番はじめに誘導される物質であり、発現が熱ストレスと対応しているとすれば、体内の精巣間質では、精細管内と比較して温度が高い可能性も考えられる。またゾウ精巣では、体内で通常にミトコンドリアシャペロンであるHSP60の発現が強く見られATP5Aの発現が高かったことから、ミトコンドリアを構成する蛋白質を熱ストレスから守り、ミトコンドリアの呼吸活性を上昇させ、ゾウ停留精巣内での精子形成状態に寄与している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
今年度、人為的熱ストレスで誘導可能な熱ストレス蛋白質を他動物の発現状態と比較することにより、ゾウ精巣では体内でこれらの熱ストレス蛋白質が通常に発現しており、ゾウ精巣では他の動物と比較して局在や発現量が異なる事を明らかにした。さらに、ミトコンドリアを構成する蛋白質を熱ストレスから守り、ミトコンドリアの呼吸活性を上昇させることが、ゾウ停留精巣内での精子形成状態に寄与している可能性をはじめて示した。現在、単孔類の精巣での検討も平行して進めており、熱ストレスに強い精巣の精子形成の仕組みをさらに検討していくことにより、他の多くの熱ストレスに弱い精子形成の仕組みを明らかにすることが可能であると考えられる。
ゾウの精巣組織培養系では、HSP90Aが熱ストレスにより他の関連分子よりいち早く誘導され、精細胞の保護、増殖、分化と細胞死に関与している可能性を示したので、HSP90Aがゾウ精巣において熱ストレス反応における鍵分子であることを明らかにするため、ゾウの精巣組織培養系でHSP90Aの阻害剤を用いて、熱ストレスの影響を検討する。また、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によりHSP90Aの発現を抑制したゾウ線維芽細胞株を作製し、熱ストレスとの関係を検討する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Reprod Domest Anim.
巻: 51 ページ: 1039-1043
10.1111/rda.12766
Cryo Letters
巻: 37 ページ: 264-271
ISSN 0143-2044