本研究の目的は、精子形成の温度感受性を鳥類とほ乳類の間で比較検討し、脊椎動物が恒温性を獲得する際に講じた精子形成の耐高温戦略を解明することである。 ほ乳類の精巣は陰嚢内に存在し、腹腔内よりも3~4℃低い温度(低温環境)で正常な精子形成が起こるが、腹腔内(高温環境)に留まると精子形成は著しく障害されることが知られている。本研究は、非侵襲的に温度測定可能なマイクロチップをマウス陰嚢および腹腔内に外科的手術により留置し、生理条件下における陰嚢温を測定することで、陰嚢(34℃)は、腹腔内(38℃)より約4℃低いことを再発見した。続いて、精子幹細胞から成熟精子までの分化をサポートする精巣器官培養法を用いて、温度とマウス精子形成の関係を検討した結果、温度の影響のみで精子形成が抑制されることを発見した。また、興味深いことに、これまでは一つと考えられてきたほ乳類精子形成の温度閾値が、複数存在することが明らかになった。 鳥類の精巣は腹腔内に位置しており、定説では精子形成は高温環境下で行われるとされている。しかし、先行研究では生理条件下での精巣温が測定されていないなど課題が残されており、この定説は再検討の余地があった。本研究は、上記のマイクロチップをウズラ精巣および腹腔内に外科的手術により留置し、生理条件下における精巣温を測定することで、精巣(42.0℃)は、腹腔内(42.5℃)と比較して約0.5℃低いことを明らかにした。続いて、鳥類独自の呼吸器官である気嚢が精巣温を冷却する可能性を検討するために、気嚢のガス交換を外科手術によって阻害した。その結果、気嚢は精巣を約0.5℃冷却する効果を持つが、精子形成に影響を及ぼさないことを見出した。 以上より、鳥類の精子形成は、高温環境で進行しており、ほ乳類でみられる温度感受性を持たないことが示唆された。
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