本研究は、最近申請者が開発した染色体複製ドメイン構造を単一細胞で、かつゲノムワイドに調べることができる新しい手法(scRepli-seq法)を用いて、これまでアプローチが困難であった個々の細胞レベルでの染色体構造制御を明らかにすることを目指している。最終的には、そのような制御を生み出すメカニズム解明にむけた基盤情報を当該研究分野に提示することを目標としている。本年度は、昨年度に引き続きマウスES細胞および神経前駆細胞からデータを収集した。また、scRepli-seq法のプロトコール改良を進め、SNP情報を利用して単一細胞内の父方と母方由来染色体を区別した解析系や、より低コストで実験を行える系を確立した。さらに収集したデータの解析パイプラインの確立を進めた。染色体ドメイン構造の安定性を定量的に再評価したところ、昨年度に得られた結果(大部分の複製ドメイン構造は個々の細胞レベルで非常に安定に形成されている)に加えて、これまでの解析では気付かなかったドメイン構造制御の特徴が明らかになった。具体的には、1)細胞分化の過程で構造変化を起こす染色体ドメインは、未分化状態の細胞では構造的に不安定な傾向がある、2)この不安定性は、細胞が分化すると消失する、ということが明らかとなった。細胞分化状態と染色体構造制御の関係を示す非常に興味深い結果である。現在、これらの知見を取りまとめて論文として投稿中である。
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