研究領域 | 染色体オーケストレーションシステム |
研究課題/領域番号 |
16H01406
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 眞理 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (90761099)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 染色体融合 / クライシス / テロメア / M期 |
研究実績の概要 |
正常な細胞の腫瘍化や腫瘍の悪性化と密接な関係のある染色体不安定性はいかにして引き起こされるのか、そのメカニズムの解明を目標とする。特に研究代表者が発見した、染色体融合に依存した細胞周期M期の停止という現象に着目する。染色体融合は、正常な細胞が腫瘍化するごく初期のステージ(テロメアクライシス期)や、がん細胞において観察される。一方、M期停止は染色体不安定性やがん化と密接に関わる現象である。これらの現象はこれまで個別に記述されてきたが、上記の発見によって細胞のがん化に際して同じ経路で染色体不安定性を駆動している可能性が示された。そこで本研究計画では、染色体の融合がM期停止を引き起こす分子メカニズムの解明を目的としている。 この現象を説明するために、姉妹染色分体の融合と異なる染色体間の融合とで、その後の細胞周期に与える影響が異なり、後者がM期停止を引き起こすとの仮説を提唱した。これを明らかにするためにそれぞれの染色体融合を人為的に引き起こし、さらに融合した部位から蛍光タンパク質が発現する系の開発を目指した。当該年度においては、蛍光タンパクmCitrineの発現を伴う姉妹染色分体の融合を人為的に引き起こせる系を樹立し、mCitrine陽性細胞において姉妹染色分体の融合が見られることを確認した。このように染色体融合を持つ細胞を可視化する前例のない技術を用いてmCitrine陽性細胞の運命解析を行ったところ、姉妹染色分体の融合は目立った細胞周期の変化を引き起こさないことが示唆された。現在はmCherryの発現を伴った異なる染色体間の融合を引き起こせる系の確立を目指して研究を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、ヒト細胞のX染色体短腕末端付近及び11番染色体長腕末端付近に人工のDNA配列を挿入し、人為的にX染色体の姉妹染色体分体融合、及びX-11番染色体間の融合を引き起こせる系の開発を目標としていた。染色体末端付近はDNA改変の効率が低く、人工DNA配列の挿入には試行錯誤を必要としたが、最終的にX染色体短腕末端付近に目的のDNA配列を挿入した細胞株の樹立に成功した。また現在この細胞株をベースとして、さらに11番染色体長腕末端付近へ別の人工DNA配列の挿入を試みている。現在得られた系では、X染色体の姉妹染色分体融合をmCitrineで可視化することに成功しており、当初の実験系の設計が予想したように機能することが示された点でおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
人工DNA配列によって染色体融合を引き起こし、細胞を可視化するという研究計画の基本コンセプトが期待どおりに作用することが明らかとなったため、引き続き研究計画に沿って系の開発を推進する。系の開発後は細胞集団に染色体融合を引き起こし、mCherryもしくはmCitrine陽性となった細胞をライブセルイメージングによって追跡することで、細胞レベルでのM期の挙動を解析する。これによって、異なる染色体間の融合がM期停止を引き起こすのか明らかにする。次に、ヒストンに蛍光タンパクを融合させ染色体を可視化する技術をこの系と組み合わせることで、染色体融合が引き起こすM期停止中の染色体を観察し、その挙動の4次元情報を取得する。この4D解析により、M期染色体動態のどの段階が阻害されているのかを突き止める。申請者はすでに、染色体融合によって引き起こされるM期停止がSpindle Assembly Checkpoint(SAC)機構に依存することを報告している。そこで、融合した染色体の局在をFISH法、SAC因子MAD2の局在を免疫染色法で解析し、SACを活性化しているのが融合した染色体であるのか解析する。またG1期におこる染色体間の融合がDNA複製をなんらかの理由で阻害し、これによって続くM期の進行が間接的に影響を受ける可能性を検証する。細胞周期特異的に分解される複製因子の一部(Geminin, Cdt1)をCas9に付加し、Cas9による染色体融合がG1期もしくはG2期に特異的に起きるような系を作り、その後のM期への影響を解析する。
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