クロマチンファイバーは配列情報だけでなく、分子修飾情報や3次元構造情報が実装された物理的実体である。これらの情報は相互に関係しており、また、巧みな時空間的制御が細胞周期を通じて機能している。平成29年度は、それらの情報をどのように染色体高分子モデリングに導入することができるかの理論的基盤を開発し、また、計算機シミュレーションによってその相互作用を明らかにすることを試みた。 染色体構造捕獲法における、近接のDNAがホルムアルデヒド架橋される「コンタクト」現象を高分子物理を基礎に数理的に記述することに成功した。これによって、ゲノム距離の関数としてのコンタクト確率データが意味する階層的な折りたたみ構造を定量的に理解できることがわかった。理論的予想だけでなく、実際のHi-Cデータの評価も行った。 次に、高分子モデルをネットワーク型に一般化することで、コンタクトマップとの関係を考えた。その結果、ネットワーク型高分子の2次元的な関係が、1対1にコンタクトマップと対応することを理論的に明らかにした。さらに、任意のコンタクトマップを実現するような4次元シミュレーションも可能になった。 最後に、実際のHi-Cデータからネットワーク型高分子のパラメータを取得する方法を開発した。理論に基づいた最適化のアルゴリズムを見つけることができ、実際のデータと98%以上の相関をもつような高分子モデルのパラメータを取得できるようになった。これらの値に基づいた、4次元シミュレーションも可能になった。また、取得された物理パラメータとChIP-Seqのデータとの相関解析も可能となり、高分子モデルの物理情報と、分子情報、および構造情報の関係を議論できる理論的基盤を与えることに成功した。
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