研究領域 | 染色体オーケストレーションシステム |
研究課題/領域番号 |
16H01409
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
立花 誠 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 教授 (80303915)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒストン修飾 / 胚性幹細胞 |
研究実績の概要 |
遺伝子の発現は、トランスとして働く転写因子の機能と、シス因子として機能する染色体構造の両者によって規定される。染色体の高次構造は、ヒストンの化学修飾によるエピジェネティックな制御によって大きく影響を受けることが知られている。ヒストンの化学修飾には修飾酵素(Writer)・脱修飾酵素(Eraser)・修飾特異的な読み取り分子(Reader)の3 者が深く関与しており、これらの協調的な作用によって染色体の機能が発揮される。ヒストンH3の9番目のリジン残基(H3K9)のメチル化修飾は遺伝子発現の抑制に相関するエピジェネティックマークである。我々は、H3K9の脱メチル化を触媒する酵素である、Jmjd1aおよびJmjd1bの双方を欠損させると細胞増殖が著しく阻害されることを、マウスの胚性幹(ES)細胞を用いて明らかにした。この知見をもとに、胚性幹細胞の機能にH3K9のメチル化がどのような役割を担っているのかについて研究を進め、下記の事実を明らかにした。 1. ES細胞でJmjd1a/Jmjd1bを双方欠損させると、細胞周期の進行阻害は観察されず、アポトーシスが顕著に亢進した。このことから、細胞増殖停止の要因は細胞死の増加であると結論した。 2. ES細胞でJmjd1a/Jmjd1bを双方欠損させると、H3K9のジメチル化とトリメチル化が大幅に亢進した。一方でJmjd1aあるいはJmjd1bの単独欠損ではH3K9のメチル化のレベルは野生型と同等レベルを保っていた。以上のことから、Jmjd1aとJmjd1bはH3K9の脱メチル化において機能が重複していることが示された。 これらの知見を踏まえ、今後はH3K9メチル化Writer/ReaderがJmjd1a/Jmjd1bの機能とどのような協調作用にあるのかについて検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の目標その1「H3K9me2 Eraser であるJmjd1a とJmjd1b を条件的に欠損したマウス胚性幹細胞の表現型を解析する」については、細胞周期と細胞死の解析により、Jmjd1a/Jmjd1bの欠損による細胞増殖停止の要因は、細胞死の増加であると結論づけることができたため、概ね順調に進展していると判断した。 平成28年度の目標その2「Jmjd1a/b を欠損させた際のマウス胚性幹細胞における遺伝子発現の変動を明らかにする。」について、いくつかの標的遺伝子を絞り込むことができたため、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1)Jmjd1a/Jmjd1bの標的遺伝子について:平成28年度に明らかにした標的遺伝子の候補について、H3K9のメチル化と遺伝子発現の相関を明らかにする。具体的には、クロマチン免疫沈降実験によってエピゲノムと発現との関連を明らかにする。また、細胞死の増加とこれらの標的遺伝子の発現異常との関係を明らかにする。 2)ES細胞のH3K9メチル化維持に関わるWriterについて:Jmjd1a/Jmjd1bによるH3K9の脱メチル化に拮抗するH3K9メチル化Writerの候補について、さらに詳細な解析を進める。具体的には、G9a, Suv39h1, EsetなどのH3K9メチル化候補分子の変異をJmjd1a/Jmjd1b欠損細胞に導入し、表現型をレスキューするかどうかを検証する。
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