昨年に引き続き、主にクロマチンリモデリング因子FACTのSPT16 サブユニットのMidドメイン及びそれに続くAIDセグメントとヌクレオソームから構成される複合体を急速凍結し、位相板及び電子直接検出カメラを備えたクライオ電顕(大阪大学)にて画像データを取得した。位相板の使用により、これまで解析が困難であった分子量20万程度の比較的小さな粒子の場合でも、高分解能且つ高コントラストな粒子像を得ることが可能となった。先行研究からMid-AID、そして弱いながらもAID単独でヌクレオソームの不安定化が引き起こされる事がわかっている。立体構造解析の結果、少なくとも2つの構造が混在していることが明らかになった。一つ目は反応生成物に相当するヘキサソームである。1対のH2A/H2Bが離脱していること以外、大きな構造変化を起こすことなしにヘキサソームが安定に溶液中に存在しうること、その一方で詳細に見ると、ヒストンH3のC末αヘリックスの密度が消失し、DNAの末端もヌクレオソーム構造が解ける方向へシフトするなど、不安定化、更には破壊へと進む要因も示せた点が重要である。 2つ目の構造は分解能5.7オングストロームに達し、ヒストン8個全てを保持しており、そのαヘリックスを全て可視化することができた。ヒストンコアとDNAの112 bp長分は完全にヌクレオソームの結晶構造と重なり、DNAが剥がれた領域(33 bp相当)にはDNAと置き換わる形でAIDがヒストンコアに巻付くように結合していた。以上の結果から、FACTのヌクレオソームへの侵入はDNAの弛み等を利用して、H2BとAIDの結合を足がかりに、DNAを剥がしそれと置き換わる形で、酸性残基に富むAIDがヒストンコアに巻付いていくことで進行するという過程が推察される。
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