研究実績の概要 |
テロメアは染色体末端に位置するTTAGGG(ほ乳類の場合)の反復配列で、染色体末端を保護する役割を持つ。またテロメアの長さは細胞分裂毎に短くなり、老化を測定する時計の役割を果たすと考えられている。一方ヒトの疫学調査結果から、精神ストレスを受けるとテロメアの長さが短くなることが示唆されており、またテロメアの長さが次世代に遺伝することも示唆されている。しかしストレスによるテロメア短縮のメカニズム、テロメアの長さが世代を超えて遺伝するメカニズムは全く分かっていない。 様々な精神ストレスにより抹消組織でTNF-αなどの炎症性サイトカインが誘導されることが知られている。私達は最近、ストレス応答性のクロマチン構造制御因子ATF7がテロメラーゼ(TERT)と結合し、テロメア上のKu複合体を介して、テロメアに結合すること、そして精神ストレスで誘導される炎症生サイトカインTNF-αによりATF7がリン酸化されると、ATF7とTERTがテロメアから遊離し、テロメアが短くなることを明らかにした(NAR, 2018)。また私達は精細胞でのストレスによるテロメア短縮がそのまま次世代に遺伝するのではなく、TNF-αがATF7のリン酸化を介してサブテロメア領域のヘテロクロマチン構造を壊し、その領域からの転写誘導により増加したTERRA(Telomere repeat-containing RNA)が、精子を経て受精卵に伝達され、それにより次世代組織でテロメア短縮が生じることを明らかにした。このように染色体構造の維持に重要なテロメアの長さは、世代を超えて精神ストレスの影響を受けることが明らかにされた。
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