研究領域 | 染色体オーケストレーションシステム |
研究課題/領域番号 |
16H01414
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研究機関 | 公益財団法人かずさDNA研究所 |
研究代表者 |
舛本 寛 公益財団法人かずさDNA研究所, 先端研究部, 室長 (70229384)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工染色体 / セントロメア / ヘテロクロマチン / 反復DNA / アルフォイドDNA |
研究実績の概要 |
染色体分配機能に必須なセントロメアでは、反復DNA(アルフォイドDNA)からなる巨大領域にヒストンH3バリアントであるCENP-Aを含んだクロマチンが集合し、これを足場に多様な因子群が集積し、キネトコア構造体が形成される。キネトコアでは微小管との相互作用により染色体の動きを調節する。一方、セントロメア内部ではヘテロクロマチンが集合し姉妹染色分体の接着・分離を調節する。しかし、同一反復DNAからなる巨大領域にどのようにこれらの異なるクロマチンが集合し、機能統合体としてのオーケストレーションを保つのかは不明なままである。本代表者らはこれまでに、合成反復DNAを細胞へ導入して、セントロメア機能を獲得したヒト人工染色体(HAC)の構築に成功している。そこで本研究では、セントロメアの階層的集合メカニズムを解明し、ヘテロクロマチンとの集合バランスとその変動が引き起こす影響について明らかにすることを目的とし、HACやChIP-seqによる方法を用いて(1)染色体機能形成の階層性とヘテロクロマチンの解析、(2)ゲノム反復DNA上のクロマチン構造の解析、に取り組む計画である。H28年度は以下の成果を得た。(1)染色体機能形成の階層性とヘテロクロマチンの解析:合成反復DNAと各種融合タンパクを用いた構成生物学的手法を駆使して、KAT7とSuv39h1がお互いに拮抗的にセントロメアクロマチンとヘテロクロマチンの集合と抑制のバランス制御に関わることを明らかにした。(2)ゲノム反復DNA上のクロマチン構造の解析:ChIP Seq法により、ゲノム反復DNA上のクロマチン構造の解析を進め、CENP-Aクロマチン、CENP-B、ヘテロクロマチン(H3K9me3)の詳細な分布を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)染色体機能形成の階層性とヘテロクロマチンの解析: tetO配列挿入反復DNAからなる人工染色体(tetO-HAC)とtetO-反復DNAの染色体挿入部を用い、tetR-各種融合タンパクを結合させる構成生物学的手法を駆使しながら、セントロメア・キネトコア因子群の階層的集合機構を解析した。その結果、セントロメアを決定するCENP-Aクロマチンの集合に必須なMis18複合体とヒストンアセチル化酵素KAT7(MYST2)が相互作用し、更にKAT7のアセチル化によりリモデリング因子のRSF1が集合することを発見した(Ohzeki et al DevCell 2016)。Mis18複合体の下流でのKAT7とRSF1の集合は、ヘテロクロマチン様に修飾されたヒストンでも交換反応を促進することで、その侵食をくい止め、同時に新しいCENP-Aクロマチンの補充を促進する反応にも関わっていることを明らかにした。 (2)ゲノム反復DNA上のクロマチン構造の解析: セントロメアの巨大反復DNA領域のゲノム構造の解明は反復DNA解析の困難さに阻まれ遅れていた。CENP-Aクロマチン、CENP-B、ヘテロクロマチン(H3K9me3)がゲノム反復DNA領域上で実際どのように分布しているのかChIP Seq法により解析を進めた。各種解析ツールの組み合わせと実行パラメーターを反復配列用に最適化し、最新のヒトゲノム(バージョンhg38)と独自に作製した解析スクリプトを駆使して、ゲノム反復DNA上の詳細なクロマチン構造を明らかにした。これまでにヒト染色体セントロメア領域に同一の反復DNAファミリーに属するサブドメインを見つけ出し、これらサブドメイへのCENP-Aクロマチン、CENP-B、ヘテロクロマチン(H3K9me3)の分布にそれぞれ違いがあることを発見した。 以上の成果に示した通り、計画は予定通り進展した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)染色体機能形成の階層性とヘテロクロマチンの解析: tetO反復DNAとtetR-各種融合タンパクを結合させる構成生物学的手法を駆使しながら、セントロメア・キネトコア因子群の階層的集合機構の全容を解明する。一方、同じ反復DNA上にはCENP-Aクロマチンとは拮抗するヘテロクロマチンも集合する。細胞分化や老化に伴ってヘテロクロマチン(H3k9me3修飾)の強度が変化し、これがセントロメア機能に影響を与える可能性が示唆されている。そこで今後の研究では、セントロメアクロマチンとヘテロクロマチンの集合バランスと細胞老化等の制御機構との関連について明らかにする。セントロメアのCENP-A集合量を制御するヒストンアセチル化酵素KAT7(MYST2)をRNAiで減少させた場合にも、ヘテロクロマチンが増加して正常細胞で細胞老化が誘導されるかどうかについて検証する。また、多様なセントロメア因子群のノックダウンを行い、p53に依存する細胞老化誘導が起こるかどうかについても解析する。 (2)ゲノム反復DNA上のクロマチン構造の解析: セントロメアの巨大反復DNA領域のゲノム及びクロマチン構造の解明を目的として、CENP-Aクロマチン、CENP-B、ヘテロクロマチン(H3K9me3)が実際どのように分布しているのかChIP Seq法による解析を進める。H28年度の解析によりヒト染色体セントロメア領域に同一の反復DNAファミリーに属するサブドメインを見つけ出し、これらサブドメイへのCENP-Aクロマチン、CENP-B、ヘテロクロマチン(H3K9me3)の分布にそれぞれ違いがあることを発見した。H29年度はこれらの違いと連動するヒストン修飾機構について唯一のセントロメア反復DNA特異的結合タンパクであるCENP-Bの KO株とWT株で比較解析する。
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備考 |
かずさDNA研究所の細胞工学研究室がDaiwa Adrian Prizes 2016を受賞、英国王立協会で授賞式 http://www.kazusa.or.jp/j/information/re_info/2016/0805.html http://www.kazusa.or.jp/j/information/re_info/2016/1128.html
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