公募研究
透明化技術は三次元構造の高速な解析を実現するものであり、神経ネットワーク構造解明のブレイクスルーにつながると期待される。しかし、透明化された脳組織をいかに活用して神経回路構造を解析するかという『真の応用』はまだ始まったばかりである。本研究課題では透明化技術を軸に、『マクロ―メゾ―ミクロ』の各階層を有機的に結びつけ、神経ネットワーク構造を効率的に解析する方法論を確立することを目的としている。本領域で展開されている、色素、光学顕微鏡、イメージングソフトウェア、サンプル調製を包括する技術開発を参考にしながら、平成28年度は以下の課題に取り組んだ。(1) 高発現型アデノ随伴ウイルスベクターの開発:アデノ随伴ウイルス(AAV)にTet-Offシステムを利用し、新たなレポーター遺伝子発現増幅AAVベクター(AAV SynTetOff)を開発した。目的遺伝子の発現量を40倍程度まで増幅することに成功している(Sohn et al., 2017)。(2) 本領域で開発されている新規蛍光・発光プローブ(未発表)を、上記「AAV SynTetOff」に搭載することで、標識効率の向上に成功した。(3) 各種シグナル配列を利用することで、錐体細胞の効率的な標識技術の開発を進めた。さらにScaleS法にて透明化を行うことで、神経回路構造を効率的に解析する技術開発に取り組んだ。今後は、透明化ステップの改変、撮影技術やソフトウェアの検討を重ねていく。(4) ScaleS法で透明化したサンプルから、綺麗な電子顕微鏡像を得る技術に取り組んだ。透明化ステップとサンプル調整法を工夫することで、超微細構造の保持が向上することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
特に大きな問題も生じず、順調に進んでいる。
(1) 大脳新皮質運動野から脊髄にまで軸索を展開する皮質脊髄路(CST)ニューロン、もしくは皮質GABA細胞に対し、我々が開発した「AAV SynTetOff」によって効率的に標識する技術を確立する。特に各種シグナル配列の有効性について検証を進める。そして可視化された神経細胞をマクロレベルからミクロレベルまで観察する系の確立に注力する。この際、本領域で開発されている顕微鏡技術、ソフトウェアを積極的に利用していく。さらに、超微細構造を観察する目的で、電子顕微鏡観察も行う。ScaleS法で透明化されたサンプルにおいて、超微細構造がきちんと保たれるサンプル調整法を確立する。(2) 本領域では様々な新規プローブが開発されている。神経回路構造解析に有用と思われるものを積極的に取り入れ、「標識」という観点からバイオイメージングの可能性を追求する。また、透明化に関わる一連の技術開発も引き続き進め、「観察」という観点からもバイオイメージングの革新を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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