我々はこれまで、蛍光分子を1分子レベルで観察し、蛍光の点滅過程=blinkingを追跡することにより、種々の化学反応の速度を1分子レベルで測定し、蛍光分子周辺の環境情報を読み出す手法開発を行ってきた(Kinetic Analysis based on the Control of fluorescence Blinking: 以下KACB法)。今回、蛍光分子がほぼ消光されているヘアピンRNAを構築し、極低頻度で起こるヘアピンの開裂をKACB法により評価することを検討した。点滅の頻度から構造転移が起こる頻度がわかり、光っている時間の長さから開状態として存在している時間を測定できる。KACB法を用いて過渡的な弱い相互作用がヘアピンの開裂を誘起する可能性について探求を行った。平成28年度は、ヘアピン状態では蛍光が電子移動消光されているUUUUループを持つヘアピンを構築し、ほぼヘアピン状態として存在している温度条件でFCS測定を行った。多くの蛍光分子は共焦点領域通過中に一度も発光状態(=開状態)にならず、ヘアピンの開裂頻度をblinkingにより評価した。ループ部位に相補的なオリゴヌクレオチドAAAAを添加したところ、開裂頻度が約倍程度増加することを示唆する結果が得られた。平成29年度は、UUUUループ、および、UUUUUUUUループを有するRNA鎖にAA、AAA、AAAA、AAAAAA、AAAAAAAAを添加し、構造転移をKACB法により評価した。その結果、UUUUループでは短いオリゴヌクレオチドとの相互作用により構造転移が促進されるが、よりループ部位のひずみの少ないUUUUUUUUループではほとんど影響を受けないことを示唆する知見を得た。
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