細胞モデルとして汎用されてきたミクロ高分子液滴を集積させて細胞組織モデルを作成し、その形態と細胞間接着力、細胞内力学などの相関関係を解明することで、細胞組織の形態制御における基本原理に迫ることが本研究の目的であった。マイクロ流路を用いた細胞組織モデルの作成技術、細胞モデルの力学と細胞間接着力の測定法を用いて、(1)細胞間接着力に依存した細胞組織シートの形成原理、(2)細胞組織モデルの形態と細胞間接着力の相関、(3)細胞モデルの力学特性変化と形態変化の相関、について得られた成果を報告する。 (1)細胞組織シートの形成原理: マイクロ流路デバイス中で複数のミクロ高分子液滴を平面内で集積させて、細胞組織シートを作成した。細胞間接着力の異なる2種類の分子を混合し、液滴を覆う分子の緩和速度と細胞組織シートの形態の相関を解析した。その結果、液滴表面を先に覆う分子が細胞間接着力の小さな分子である場合は、細密充填された細胞組織シートが、細胞間接着力の大きな分子である場合にはランダムに膜接着した細胞組織シートが、形成されることを見出した。 (2)細胞組織モデルの形態と細胞間接着力の相関: 静電相互作用により細胞モデル同士を膜接着させると、細胞間の接着面積に依存して膜張力が上昇すること、その理由として接着部位では分子が拡散し難いことが分かった。さらに、膜接着により非接着部位では分子拡散が促進させることも示唆された。 (3)細胞モデルの力学特性変化と形態変化の相関: 細胞モデル中の高分子混合溶液が相分離とゲル化し、細胞膜直下に細胞骨格のようなゲル層を形成する場合の形態変化を解析した。その結果、ゲル弾性と相界面張力のバランスによって、ゲル層の厚みがある特定領域でのみ、座屈変形することを実験と理論の両面から見出した。
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