研究実績の概要 |
私たちヒトを含む脊椎動物の体の形は発生中に上皮と上皮直下の未分化な間充織によって3次元の形態として形作られ、その後内部に骨格のパターンが形成されることで特徴付けられる。これまで発生生物学分野における3次元の形態形成メカニズムの研究は、上皮などの単一組織で且つ共焦点顕微鏡を用いて観察が出来る、局所的な細胞動態に着目した研究がほとんどである。しかしながら脊椎動物の多くの器官は由来の異なる組織同士が相互作用しながら協調して発生することにより、巨視的な3次元の形態として形作られる。すなわち、異なる組織同士の協調的発生メカニズムこそが脊椎動物における3次元の形態形成の本質であるといえる。 本研究では当該領域における2年間の公募研究の成果として、由来の異なる肢芽(手足の原器)の組織と脊椎骨(背骨)になる組織同士が、分泌因子を介して位置関係を維持しながら協調して後肢周辺の3次元の形態を構築する新しい発生メカニズムを発見し、これをanatomical integration(解剖学的統合)システムと命名した(Matsubara et al., Nature Eco&Evol., 2017)。これは申請者が世界で初めて提示した、器官と器官(組織と組織)の間のマクロな3次元の形態を構築する新しい発生システムの概念である。本研究成果は、NHKを始めとするテレビ2社、新聞5社、海外のメディア10社から報道された。 また肢芽の3次元の伸長メカニズムに関する実験では、計画班の松本先生との共同研究により、肢芽の上皮を単離後上皮細胞を引っ張ると、activeに上皮細胞が引っ張り返すと言う結果を引っ張り試験機により得た。また計画班の上野先生との共同研究により、上皮細胞の内部には、遠近軸方向より前後軸方向に沿った異方的な力がかかっていることが判明し力の発生源としてミオシンの関与が示唆された。
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