研究実績の概要 |
脊椎動物脳組織の線維層は、ニューロンの樹状突起と軸索が直交して格子状に配向することにより、効率良い神経回路を形成する。突起間の接合トポロジーが厳密に直交する現象を接着因子の組合せのみで説明することは不可能で、形態形成運動に伴う物理的環境変化を考慮した新しい研究の切り口が必要である。本研究は脳の神経突起3D配列決定機構の解明を目指し、樹状突起と軸索の厳密な伸長方向の決定における力学的環境の影響と構造基盤を明らかにするため、以下の研究を実施した。 (1)プルキンエ細胞と顆粒細胞の直交性接合を二次元に落とし込んだin vitro再構成系における細胞の微細構造の動態を、スピニングディスク共焦点顕微鏡により高時空間解像で追跡した。その結果、伸長する樹状突起を覆う運動性の高い糸状仮足は軸索束と並走する傾向が強く、軸索と結合していることが示唆された。また、裏打ち分子スペクトリンβIIIの欠損変異体では直交性接合が乱れ、糸状仮足の方向性も失われていた。すなわちスペクトリンβIIIが糸状仮足の安定性か軸索へ結合能を制御し、直交性を担保することが示唆された。 (2)顆粒細胞の双極性の軸索が小脳の左右に伸長するガイダンスに、小脳形態形成運動に伴う組織伸展の機械的刺激が及ぼす影響を検証するため、小脳顆粒細胞を弾性膜(シリコーンシート)上に培養して引張刺激を負荷し、双極性軸索の伸長方向に及ぼす影響を解析した。自動伸展装置(Strex社製STB-140, デモ機として借用)を用いて異方性の連続的引張刺激(20%/時間まで)を付加した。刺激を受けた細胞の突起は短く、発達が阻害される傾向があったが、いずれの刺激でも軸索伸長はランダムな方向に起こり、機械刺激が軸索伸長方向を制御するという仮説を否定する結果であった。
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