脱皮に際して新しい外骨格が硬化する際に、同じタイミングで一様に硬化するのではなく、部位ごとに硬化が早く進むところ、遅く進むところなどがある。「何らかのプログラムに従って進む硬化のパターン」が、最終的に完成する外骨格の形状や物理特性に重要である可能性について調べている。 ここでは、外骨格の硬化・着色双方に関わるラッカーゼが、活性がほぼない前駆体として作られ、その後活性化されることに注目している。活性化に関わる因子は申請者が新規に同定しており、vitroでの活性化は観察されていた。ショウジョウバエの低発現変異体では、翅の形状に異常がきたされる他、囲蛹殻の着色低下が観察された。一方、強制発現個体に関しては、着色が増大し、かつ羽化前に折り畳まれている翅の伸展が阻まれることによると思われる独特な形状が観察された。これは、本来平面状である翅に、生物学的形状から逸脱するような幾何学的形状を持たせられる可能性につながる。また、翅形状・物性に影響するゴム状タンパク質についても調べた。 その他、トンボの一部の種について、伸展の途上から重力に逆らって翅形成するために必要と思われる不均一硬化パターンがある可能性を示すものがあった。また、甲虫の前翅について、左右の羽がぴったりと合わさって半球状の形状を作る過程で、柔らかい2枚の前翅の接合部をはめ合わせるための行動をすること、及び左右の翅が組み合わさる部位の強度をあらかじめ上昇させていることで、接合部を安定化させることを示唆する観察ができた。また、セミの羽化について、羽化開始から、1)まず脚の硬化が始まり、2)硬化した脚を用いて抜け殻などに掴まって体制を整えてから、3)翅を伸展して形状を整えてから硬化する、といった部位ごとの硬化タイミングの違いも観察できた。
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