研究領域 | 生物の3D形態を構築するロジック |
研究課題/領域番号 |
16H01454
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
立川 正志 国立研究開発法人理化学研究所, 望月理論生物学研究室, 研究員 (30556882)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生物物理 / 細胞 / オルガネラ |
研究実績の概要 |
これまでに開発した粗視化膜シミュレーターを用いてゴルジ体形成モデルのシミュレーションを行い、結果をまとめて論文誌に投稿した。また細胞内の込み合い環境の中で生体膜がどのような運動を行うのか調べるため、この膜シミュレーターをブラウン粒子を組み込んで拡張した。この拡張シミュレーターを用いて、生体膜とブラウン粒子の相互作用により、膜形態がどのように変化するか以下の二つの観点から調べた。1.サイズと数を様々な値にしたブラウン粒子を生体膜の外側に分布させ、その生体膜形態への影響を調べた。結果、粒子がある程度小さい場合はその膜形態への影響は浸透圧として評価できること、粒子の空間充填率が大きくなるにつれCarnahan-Starlingの公式に合う浸透圧を及ぼす事を確認した。2.ゴルジ体や滑面小胞体様の層板状の膜形態を用意し、膜の内腔へブラウン粒子を封入して、その運動の膜形態依存性を調べた。結果、内腔のブラウン粒子が層板構造から管構造への膜の変形を促進させることを見出した。管構造が形成される過程を詳細に観察することにより、まずブラウン粒子が数個集まったクラスター状態ができ、このクラスターが核となりそこから管構造が順次作られていく事を見出した。これは、ブラウン粒子の配置のエントロピーに由来する熱力学的力が働いた結果で、枯渇力と類似の現象と考えられる。ブラウン粒子のサイズと数を様々に変え、どのような状況でこの効果が現れるか詳細に分類した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゴルジ体の形成過程のモデル研究の成果を論文にまとめるとともに、膜シミュレーターを拡張し、新たにブラウン粒子と膜との相互作用が膜形態にどのような変化を及ぼすかの研究を開始できた。その結果、膜の内腔に封入したブラウン粒子が膜形態に影響を及ぼす事を見出した。この影響は、枯渇力と呼ばれるエントロピーに由来する熱力学的力が働いた結果と考えられるが、これまで同様の形態変化の報告は申請者が知る限りなく、新しい効果と考えられる。また、タンパク質などの大きな分子が込み合い状態を作り出している細胞内環境においては、この力は大きな効果を持つと考えられる。この細胞内環境の込み合いがもたらす膜形態への影響は本研究提案の二つのテーマの一つであり、それが新しい力の発見へとつながったことは、順調な成果と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度に行った膜とブラウン粒子の相互作用シミュレーションにおいて発見した、ブラウン粒子依存的な膜のチューブ状形態変化に関して定量的に解析し、論文にまとめる。前年度の研究において、平板上の膜にブラウン粒子を入れるとブラウン粒子が核となって膜形態が平板状からチューブ状に変形すること粗視化シミュレーションによりを見出した。これは、枯渇力と呼ばれるエントロピーに由来する熱力学的力が働いた結果と考えられる。本年度はこの解析を進め、どのような状況でこの力が顕著に表れるか調べる。特に枯渇力の場合、相互作用する物体のサイズに大きく依存すると考えられるので、膜形態の典型的なサイズと粒子サイズの関係について詳しく調べ議論する。 また、本年度は、ミトコンドリアの内膜・クリステのモデル化を念頭において、膜の中に膜を閉じこめられた場合の形態運動のシミュレーションを進める。内膜・外膜の面積比、内膜・外膜の弾性比、浸透圧差をパラメタとして、どのような膜形態が表れるか調べる。内膜については折りたたみの複雑さを扁平度・チューブ形成率等を用いて定量化し、外膜については概形のアスペクト比を測るとともに、外膜のゆらぎから内膜のエントロピー力が外膜に与える膜張力を定量化する。 ミトコンドリアでは、クリステの縁にATP synthase dimerが、内膜とクリステの境界にMICOS複合体がそれぞれ局在し特徴的な構造を作っている。また、ミトコンドリアクリステは種や細胞タイプによりlamellar/tubular/discoidの多様な形態を示す。上での閉じ込められた膜の基本構造を元に、これら膜タンパク質をモデルに導入することにより、ミトコンドリアクリステの構造多様性を再現し、その多様化させているロジックを探る。
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