公募研究
神経管形成過程では、表皮と神経の境界部分で一層の二次元の細胞シートが折れ曲がり、向かい合う表皮同士が癒合し、表皮が神経管を包み込むことで三次元管構造が構築される。本課題では、神経管閉鎖時において癒合境界線(背側正中線上)周辺に存在する表皮細胞が特有な力学的な特性を持ちジッパー様に働くことで、三次元管構造が構築できるのではないかという仮説を立てている。そこで、神経管の閉鎖過程における表皮の弾性率など物理的特性を計測すること、更にはin vitro細胞実験を通じて特異な表皮細胞を生み出せる分子経路を特定することを目的に実験を行い、下記の知見を得た。現在までに、未分化な外胚葉細胞から表皮細胞への分化には、カノニカルWntシグナルに依存していることを明らかにしていた。本年度は、ES細胞からの表皮細胞へのin vitro分化系を用いることで、ノンカノニカルWntシグナルであるPCP経路が同時に活性化されることでGrhl3陽性の特有な表皮細胞が誘導されえることを明らかにした。Grhl3陽性の表皮細胞の物理的特性を計測するため、Grhl3 陽性の表皮細胞と陰性の表皮細胞について原子間力顕微鏡でヤング率を計測した。その結果、Grhl3陽性の表皮細胞の方が陰性のそれと比べて高いことが分かった。神経管閉鎖過程の表皮組織において、Grhl3を欠損胚と野生型胚との間でどのような違いがあるか計測するため、ガラスピペットを用いて組織端を牽引又は吸引する実験を行った。Grhl3欠損表皮細胞を牽引すると、野生型表皮細胞に比べより変形することが分かった。また、Grhl3欠損表皮組織を吸引すると野生型表皮組織に比べてより小さい圧力で変形できることが分かった。これらの結果から、Grhl3は、PCP経路などを介してより強固な表皮細胞を誘導することで神経管閉鎖に必要な力学的機能を担っていると示唆される。
1: 当初の計画以上に進展している
表皮細胞の誘導にはカノニカルWntシグナルだけでなく、ノンカノニカルWntシグナルが関与していることを見いだした。更に、原子間力顕微鏡を用いた解析及びピペット牽引実験によりGrhl3によって誘導された表皮細胞表面の物理的な特性を計測することに成功した。以上の知見から、当初の計画以上に進展していると考えられる。
Grhl3遺伝子がどのようにノンカノニカルWntシグナル(PCP経路)に関与しているのか、in vitro細胞培養系での生化学的解析やマウス個体を用いた遺伝学的解析を進める。
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