昨年度までに、神経管の閉鎖過程において神経と表皮の境界では、幹細胞マーカーを発現する未分化な前駆細胞が存在すること、神経管が閉鎖するタイミングで、カノニカルWntシグナルと下流エフェクター分子であるGrainyhead-like 3(Grhl3)によって前駆細胞は、表皮外胚葉へ分化すること、また、ES細胞から表皮細胞への分化系においては、Grhl3は、F-actin豊富な大型の表皮細胞を誘導すること、大型の表皮細胞の誘導には、カノニカルWntに加えて、ノンカノニカルWntが関与していることを明らかにしている。本年度は、分化した表皮細胞が、どのように神経管閉鎖運動を進行させるのか、主にマウス胚の個体レベルで解析を進めた。 まず、ノンカノニカルWntとGrhl3が実際に相互作用しているかどうか検討するため、Grhl3変異マウス胚を解析した。結果、Grhl3欠損胚では、Vangl2タンパク(ノンカノニカルWnt経路のコア分子)及び標的であるリン酸化ミオシンの発現が低下したこと、Vangl2とGrhl3遺伝子の二重変異マウスでは、神経管閉鎖異常が重篤化したことから、Grhl3とノンカノニカルWnt経路が相互作用していることが分かった。分子機構としては、Grhl3タンパクの細胞内局在を解析すると、表皮分化後に核内から細胞質へと移動しノンカノニカルWnt経路を活性化することが示唆された。更に、より細胞質内又はより核内で局在させるようなGrhl3タンパク質を発現させて、表現型を解析したところ、表皮細胞の誘導や神経管閉鎖の進行には細胞質内でGrhl3が分布することが必要であることが分かった。以上の結果から、Grhl3遺伝子は、核内で転写因子として表皮細胞分化を誘導するだけでなく、細胞質内でノンカノニカルWnt経路を活性化することで神経管閉鎖運動に働いている可能性が強く示唆された。
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