研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
16H01460
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
竹澤 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20281834)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | コケ植物 / 環境 / 制御 / プロテインキナーゼ / 変異株 / 相互作用因子 |
研究実績の概要 |
本研究では、コケ植物を用い、ABAや低温、乾燥、高浸透圧応答に欠損を持つ変異株の解析や、既知シグナル因子との相互作用解析から、ストレス情報の統合的制御に関わる因子の同定を目指している。 紫外線照射したヒメツリガネゴケ原糸体細胞からABA非感受性変異株約を単離し、ABA、高浸透圧、低温馴化能について解析した。これらのうちの多くがRaf様プロテインキナーゼをコードするARK遺伝子に変異が検出された。arkミスセンス変異の多くはC末端のキナーゼドメインに見つかったが、N末端の非キナーゼドメインにある特定の領域にも変異が見つかり、ARKタンパク質の機能調節に重要な領域であることが示唆された。一過的遺伝子発現系を用いた欠失解析からもN末端ドメインの活性制御領域としての重要性が示唆された。 ヒメツリガネゴケRaf様プロテインキナーゼARKのGFP融合タンパク質を発現する形質転換体から抗GFP抗体ビーズを用いてタンパク質を精製し、LC-MS/MS解析によりリン酸化ペプチドおよび相互作用タンパク質の解析を行った。リン酸化解析では、ARKキナーゼドメイン内のアクチベーションドメインにあるSer1029のリン酸化が検出された。抗リン酸化抗体を用いた解析から、S1029のリン酸化はABAにより亢進することが明らかとなり、Ser1029をAlaに置換した形質転換体ではABA応答や高浸透圧応答が著しく低下していた。相互作用タンパク質の解析では、ヒメツリガネゴケが持つすべてのエチレン受容体との相互作用が示唆された。エチレン受容体の一つPpETR7を過剰発現する形質転換体では、ABA応答が低下し、エチレンシグナルがARKを介してABA応答を負に制御していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒメツリガネゴケ原糸体細胞からABA非感受性変異株約100株を単離し、解析することができた。これらのうち55株についてはRaf様プロテインキナーゼをコードするARK遺伝子に変異が検出され、ナンセンス変異株とミスセンス変異を解析することができた。変異の多くはC末端のキナーゼドメインに見つかったが、N末端の非キナーゼドメインにある特定の領域にも2箇所の変異を同定することができた。一過的遺伝子発現系を用いた欠失解析からもN末端ドメインの活性制御領域を同定することができた。 また、ARKのGFP融合タンパク質を発現する形質転換体から抗GFP抗体ビーズを用いてタンパク質を精製し、LC-MS/MS解析によりリン酸化ペプチドおよび相互作用タンパク質の解析を行った実験では、最終的にSer1029がリン酸化が部位であることを確定することができた。抗リン酸化抗体を用いた解析からもSer1029のリン酸化はABAにより亢進することが証明できた。Ser1029をAlaに置換した形質転換体ではABA応答や高浸透圧応答が著しく低下していたことから、Ser1029の重要性を示すことができた。上記のN末端ドメインにarkミスセンス変異が検出された株では、Ser1029のリン酸化がほとんど検出できなかった。ARK-GFP形質転換体を用いた相互作用タンパク質の解析では、ヒメツリガネゴケが持つ7つすべてのエチレン受容体とARKとの相互作用が示唆された。エチレン受容体の一つPpETR7を過剰発現する形質転換体では、ABA応答の低下を示すことができた。これらの結果はエチレンシグナルがARKを介してABA応答を負に制御していることを示し、環境適応におけるホルモンシグナルのクロストークについてその一部を明らかにすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
1.ヒメツリガネゴケ変異株の配列解析をさらに進める。また、本年度はark以外の変異株とarkサプレッサーの単離を目指す。そのため、ARK遺伝子を重複した株を親株として用い、ABA非感受性株のスクリーニングを行う。得られた株については、ARK遺伝子を導入し、相補しない株を中心に解析を進める。サプレッサーについては、ark株を親株として高浸透圧条件でのスクリーニングをおこない、ABA依存的な耐性を回復する株の単離を目指す。 2.ゼニゴケARKについても解析を進める。過剰発現株およびゲノム編集株について、ABA応答、高浸透圧応答、および低温応答について明らかにする。ゼニゴケではARK以外にB3MAPKKKが2つ、B2MAPKKKが2つ存在する。これらの遺伝子についても過剰発現株の解析や一過的発現系における実験から、ABA応答、高浸透圧応答における機能を解析する。 3.ARK相互作用因子の解析から同定された新規のプロテインキナーゼARIKについての解析を進める。一過的遺伝子発現実験とともにヒメツリガネゴケの遺伝子破壊株、過剰発現株の作出を行う。また、ARIKのリコンビナントタンパク質を作成し、ARKのプルダウンアッセイやキナーゼアッセイに用いる。
|