研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
16H01463
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金岡 雅浩 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10467277)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境応答 / 異質倍数体 / 気孔 |
研究実績の概要 |
自力で移動できない植物は、環境変動に対しその情報を迅速に全身に伝え応答しなければならない。環境応答と発生とで共通する鍵遺伝子も報告されているが、両者の具体的な結びつきには未解明の点が多い。本研究課題では、広範な水環境で生育する異質倍数体植物Cardamine flexuosaが水環境の変動に応答して気孔の表現型をダイナミックに変化させることに着目し、環境に応じて両親種由来の相同遺伝子(ホメオログ)間で発現パターンが変動する遺伝子を同定し、その機能を解析することで、植物が環境変動をどのように感知し記憶して個体発生へと還元するかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる水環境で育てたC. flexuosaを用いたRNA-seq解析により、両親種C. amaraとC. hirsuta由来のホメオログ間で発現比の異なる遺伝子は、発現していた全遺伝子の約6%を占めることが分かった。これらのうち乾燥応答や気孔発生に関わりそうな遺伝子を選び個別のRT-PCRにより発現比を調べ、RNA-seq解析の結果が確認できた遺伝子をHDE (HOMEOLOGUE-DEPENDENT EXPRESSION)と名付けた。機能未知のタンパク質をコードするHDE1は乾燥条件ではhirsuta型の、湿潤条件ではamara型のホメオログが高発現しており、どちらの型のタンパク質も核局在することが示唆された。 C. hirsuta やC. flexuosaでは、湿潤環境において、気孔の隣の表皮細胞が幹細胞性を失わず二次的な気孔が発生する特徴がある。このような発生パターンを評価するために、気孔間の距離や分布パターンを計測するプログラムを開発した。このプログラムを用いて、乾燥条件・湿潤条件下での気孔の分布パターンを評価することができた。また、C. hirsutaをEMS処理し、気孔の分布パターンに関わる変異体のスクリーニングを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
HDE1はDNA結合ドメインなど既知の構造を持たないため、遺伝子ノックアウトや過剰発現により機能の推測をする。amara型・hirsuta型それぞれのプロモーター領域を含むコンストラクトを作成して形質転換し、環境による発現の逆転現象が再現されれば、転写活性がどのように制御されているか明らかにするため上流因子の探索を行う。これらの解析により、環境情報がどのように遺伝子発現と植物の表現型に還元されるかについて、制御機構の一端が明らかにできると期待される。また、C. hirsutaの変異体スクリーニングからは、気孔発生パターン、特に幹細胞性の維持に関わる因子が単離できると期待される。
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