自力で移動できない植物は、環境変動に対しその情報を迅速に全身に伝え応答しなければならない。環境応答と発生とで共通する鍵遺伝子も報告されているが、両者の具体的な結びつきには未解明の点が多い。本研究課題では、広範な水環境で生育する異質倍数体植物Cardamine flexuosaが水環境の変動に応答して気孔の表現型をダイナミックに変化させることに着目し、環境に応じて両親種由来の相同遺伝子(ホメオログ)間で発現パターンが変動する遺伝子を同定し、その機能を解析することで、植物が環境変動をどのように感知し記憶して個体発生へと還元するかを明らかにすることを目標とした。 本年度はいくつかの遺伝子についてその発現などを詳細に調べた。個別遺伝子のRT-PCRによる発現解析では、異なる環境において発現量の変化する遺伝子が複数確認された。また、遺伝子の発現調節には染色体の状態も関わることが知られているので、様々な環境下で植物を育てた際に染色体の状態の変化も調べることにした。個々の遺伝子の発現と染色体の状態との関係は、現在精査中である。 また、野外で生育する植物が刻々と変化する環境に対してどのように応答するかを明らかにするため、アブラナ科多年生植物を個体識別し、2年にわたり発生形質や遺伝子の発現変化を調べた。水分の豊富な環境と少ない環境、また日射量の多い環境と少ない環境で比較した結果、気孔の密度はどの環境下でも年間を通じて多少の変動はあるものの、大きくは変わらないという、頑強性を示した。そして一定の光量を閾値として、それ以下では気孔密度が低く、それ以上の光量では気孔密度が高くなることがわかった。これらの結果は、植物がどのような環境条件下では形質の頑強性を保ち、どのような条件下ではそれを柔軟に変化させるのかを解析するための手がかりとなる。
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