研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
16H01465
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野田口 理孝 名古屋大学, 高等研究院(農), 助教 (00647927)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 接ぎ木 / 篩管 / 長距離シグナル伝達 / RNA / 環境応答 |
研究実績の概要 |
全身を長距離移行するRNA分子の生理機能を明らかにすることを目的に、これまでに環境要因特異的な長距離移行性RNA分子の同定を行った。シロイヌナズナにおける長距離移行性RNA分子を同定するため、シロイヌナズナ地上部とルベラナズナ根部の接木(マイクログラフティング)を行い、シロイヌナズナ地上部からルベラナズナ根部に長距離移行したRNA分子の同定を行った。リン欠乏への応答を事例に試験することにし、接木試料を接木成立後にリン欠乏条件と欠乏していない対照条件に移して一定期間育成し、それらを解析に供した。ゲノムワイドに解析を行うため、ルベラナズナ根部のRNA-Seq解析を研究支援センターの鈴木博士との共同研究により行った。解析の結果、対照条件では125分子種、リン欠乏条件では177分子種が移行性RNAとして同定され、それらのうち34分子種は両条件で共通して同定された。リン欠条件でより多く検出された移行性RNA 142分子種の中には、リン酸トランスポーターが見つかった。また以前の研究でストレス応答への関与が示唆されている転写因子も2つ見つかっており、シグナル分子として働く可能性がある。今後は種の保存性の観点でも候補の絞り込みをかけ、最終的には環境要因特異的なシグナルRNAの同定につなげたい。 本研究では他に、長距離移行性RNA分子が個体レベルでどのような経路で移行するか動態解析を行うことを目的に、RNA可視化技術としてRNAアプタマーSpinachを試験した。長距離移行性を示すことが知られるRNA分子にSpinach配列を融合したコンストラクトを用意し、シロイヌナズナ形質転換体を作製して作動試験を行った。検討の結果、想定通りに系が作動し植物組織においてRNA可視化が可能であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一つ目の環境要因特異的な長距離移行性RNA分子の同定というテーマについて、1年目はモビローム解析法の適正化および栄養分欠乏下での移行性RNAの同定を目標としており、リン欠乏への応答を事例に試験を行った。データ解析のプロセスを複数試験し、適正な解析プロセスを確立した。その方法で、リン欠乏時に発動する移行性mRNAのプロファイル取得に成功し、1年目の目標を達成することができたため。 二つ目の長距離移行性RNA分子の動態解析による移行先組織の同定というテーマについて、1年目は標的RNA分子の追跡システムの確立を目標としており、予定していたRNAアプタマーSpinachについてシロイヌナズナ形質転換体を作製して作動試験を行った。検討の結果、想定通りに系が作動しRNAを可視化できることが確認され、1年目の目標を達成することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
一つ目の環境要因特異的な長距離移行性RNA分子の同定というテーマについて、モデル植物を対象としたモビローム解析により、主要栄養素N, P, Kがそれぞれ欠乏した場合について環境特異的RNA分子の同定を行う。生理機能を解析する候補の絞り込みがうまくいけば、シロイヌナズナの変異体を取り寄せ、表現型が認められる場合に、野生型との接ぎ木によって表現型が相補されるかを試験する。 二つ目の長距離移行性RNA分子の動態解析による移行先組織の同定というテーマについて、標的RNA分子の追跡システムとして1年目に確立したSpinachによるRNA標識による可視法を用いて、長距離移行性RNA分子の動態解析を行う。
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