1)自家不和合性反応時のカルシウムイオン流入経路の解明 アブラナ科の自家不和合性では花粉表面に局在する低分子タンパク質SP11が、雌蕊先端の乳頭細胞に局在するSRKに直接的かつ特異的に受容されて自己花粉認識反応が引き起こされる.これまでの研究で、このSP11-SRKの相互作用後に雌蕊細胞でカルシウムイオンの流入が起こることを示してきた.本研究ではBRETを利用したカルシウムセンサーであるNano-lanternを用い自家不和合性の検出系を確立した.この系を利用して外環境の変動が自家不和合性反応に与える影響を精査した.また、蛍光タンパク質マーカーを用いて、自家不和合性反応時にはpH低下反応が起こる事を示した. 2)自己花粉の情報処理機構の解明 自己の花粉と非自己の花粉を同時にヘテロ受粉した場合、非自己花粉の発芽はしばらく抑制されるものの選択的に受諾される.すなわち、細胞の状態が非自己花粉を受け入れられる基底状態から、自家不和合性反応を経験し、再び基底状態に戻る可逆性があることが示唆されてきた.これまでの研究で、自家不和合性反応はアクチンの大きな変動をともなうことが報告されていた(Iwano et al. 2007).そこで本研究で観察した現象について状態遷移のポイントを捉えるためにアクチンのライブイメージングを行った.結果、自己認識反応後はアクチン動態が非平行状態になることが観察された.一方、非自己受諾反応時では花粉の吸水に伴って大きなアクチンの変動が見られたが、吸水以前は基底の平行状態が維持されていることを明らかにした.そしてヘテロ受粉時にはアクチン動態が一過的に変動するものの、非自己が吸水する約1分前には平行状態に戻っていた.これらの観察から、アクチン動態と自家不和合性反応の可逆性には相関があることが推察された.
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