公募研究
植物は病原体の侵入を認識すると、その認識部位において局所的に防御応答を活性化させるとともに、長距離移行シグナルによって非感染部位を含む全身にわたって免疫機能を亢進させる。その際、特に病原体のエフェクター因子の認識に基づく、強力なエフェクター誘導性免疫が活性化された後には、次の防御応答をスムーズに誘導させる状態(プライミング)が強固に成立する。この植物免疫の記憶化として捉えられる、防御関連遺伝子の発現プライミングの成立には、転写促進型のヒストン修飾(ヒストンH3の第4リジンのトリメチル化:H3K4me3)に加えて転写抑制型のヒストン修飾(H3K27me3)が必要であることを先行研究で遺伝学的に明らかにした。また、H3K27me3メチル化因子CLFはエフェクター誘導性免疫そのものにも寄与することを示唆する知見も得た。そこで、酵母から動物・植物まで保存され共通して転写に抑制的に働くとされるH3K27me3、並びにH3K27me3メチル化因子CLFを含むポリコーム群タンパク質PRC2複合体が、意外なことに植物免疫応答やプライミングにおいて防御関連遺伝子の発現を正に制御する分子メカニズムについて解明を進めている。シロイヌナズナのclf機能欠損変異体において得られた、植物免疫プライミングにおけるRNA-seq解析データとクロマチン免疫沈降(ChIP)-seqデータを元に、現在、PRC2複合体の支配下にある標的ゲノム領域の選定を進めている。並行して、PRC2複合体CLFの直接の標的を調べるためのChIP解析や生化学的解析に必要なリソースの構築や実験条件の検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
clf変異体植物において得られたRNA-seq解析データ並びにChIP-seq解析データのマイニングや照合に予想以上に時間を必要としたものの、良質のデータが得られた様子であり、植物免疫プライミングにおいてH3K27me3の影響下にある標的遺伝子座に関して独自の重要情報を得たと考えられるため。現在、ここまでの成果をまとめた論文の投稿準備を進めている。また、プロトプラストを用いたプライミングの再構成系などの生化学的アッセイ系の構築や、CLFの標的ゲノム領域を調べるためのChIP実験のリソース準備や条件検討も順調に進んでいるため、当初の計画に関しては概ね順調に進展していると評価される。一方、植物免疫プライミングの分子的実態に本質的に迫るには、コアとなる標的遺伝子(もしくはゲノム領域)を同定する必要性が再認識された。それに向けて、シロイヌナズナにおいて植物免疫プライミングに異常を示す変異体のスクリーニング系を立ち上げ、遺伝学的解析を推進することが最適であると考え、その準備にも着手しており、重要な成果が得られると考えている。
シロイヌナズナのclf変異体植物において得られたRNA-seq解析データ並びにH3K4me3とH3K27me3のChIP-seq解析データの照合から、両ヒストン修飾のゲノムワイドの動態情報やPRC2-CLF複合体の支配下にある標的ゲノム領域のプロファイルを得る。ここまでの成果をまとめて論文発表を行う。次に、プロトプラストなどを用いた生化学的アッセイ系により、PRC2依存的なヒストン修飾・クロマチン状態・転写の再構成を試みるとともに、H3K4me3-H3K27me3のビバレント修飾の有無等を調べる。また、PRC2-CLF複合体の構成因子・相互作用因子についても植物細胞においてアフィニティ精製と質量分析を行うことで候補タンパク質のリスト化を行う。これらの解析を合わせて、PRC2の作用機序に迫る。さらに、植物免疫の記憶の分子実体(プライミングのコア標的遺伝子・ゲノム領域)の同定に向けて、プライミングのマーカー遺伝子などを用いた変異体のスクリーニング系を確立するとともにスクリーニングに着手する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件) 図書 (4件)
Current Opinion in Plant Biology
巻: 38 ページ: -
10.1016/j.pbi.2017.04.007
Nature Plants
巻: 3 ページ: -
Frontiers in Plant Science
巻: 7 ページ: 1201
10.3389/pls.2016.01201