研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
16H01473
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
永野 惇 龍谷大学, 農学部, 講師 (00619877)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トランスクリプトーム / 環境応答 / モデリング / RNA-Seq |
研究実績の概要 |
野外のような変動環境下におけるトランスクリプトームデータと気温などの環境データを統計モデリングによって解析するためのRのパッケージを開発し、CRANから公開した(パッケージ名:FIT)。このパッケージでは、Nagano et al., 2012のモデルを正則化やリファクタリングなどによって高速に計算可能としており、種々の理論的な改良点については詳細を論文として発表した(Iwayama et al., 2017 Bioinformatics)。このパッケージによって、これまで大型のクラスター計算機を用いて行う必要のあったトランスクリプトームワイドな気象データとの統計モデリング解析が、一般的なPCで実行可能となった。この解析手法では、個々の遺伝子について、概日時計や種々の環境変化の遺伝子発現変動への影響を定量的なパラメータとして評価することができる。例えば、「過去どれだけの長さの時間の気温で発現の変動を説明できるか」、などのパラメータが個々の遺伝子について得られる。「過去どれだけの長さの時間の気温で発現の変動を説明できるか」は、その遺伝子の発現変動に「気温の記憶がどれだけの長さで保持・利用されているのか」、と言い換えることが可能であろう。この解析手法では、概日時計の影響などを考慮したうえで環境変化の影響を評価できるため、野外のような複雑な変動環境のデータの解析に適しているが、実験室などではじめから関心外の要因を固定して取得したデータの解析にも十分なデータ数があれば適用可能である。 変動する環境下における環境応答の記憶を定量するためには、時系列で多数の測定が必要である。そこで、多検体を安定に処理するために、RNA-Seqライブラリの自動調整系を確立した。これによって、同時に384多検体のRNA-Seqライブラリの自動調整を行うことが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的である環境記憶の定量を効率よく行うための計算ライブラリを、当初の予定通り公開することが出来たため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
変動する環境下における環境応答の記憶を定量するためには、時系列で多数の測定が必要である。そこで昨年度、多検体を安定に処理するために、RNA-Seqライブラリの自動調整系を確立した。これによって、同時に384多検体のRNA-Seqライブラリの自動調整を行うことが可能となった。今年度はさらなる低コスト化、多検体化を進めるためにcombinatorial indexingなどの新しい実験手法の導入を検討する。 昨年度は、変動環境下におけるトランスクリプトームデータと気温などの環境データを統計モデリングによって解析するためのRのパッケージを開発し、CRANから公開した(パッケージ名:FIT)。今年度はFITのさらなるバージョンアップを行うとともに、環境記憶の定量を行う別のデータ解析手法の検討を行う。 また、本新学術領域内の山口公募班と連携し、jmj30jmj32二重変異体における温度記憶の長さ・強度をトランスクリプトーム全体について定量し、野生型との比較を行う。具体的には、我々の研究室で開発したPC制御可能なインキュベータで様々な温度変化をあたえて、時系列トランスクリプトームデータを取得し、FIT、相互情報量などを用いて記憶の定量を行う。
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