公募研究
植物の細胞膜上には多くの受容体が存在し、病原菌の構成成分を認識すると、感染部位で一過的な防御反応を誘導する。この反応は、病原菌の二次感染に対して迅速な反応を活性化する「プライミング」状態を誘導する引き金となっている。このプライミング効果は、病原菌の二次感染に備えた「植物免疫記憶」である。プライミング効果による迅速な免疫遺伝子の活性化は、遺伝子領域のDNAの脱メチル化制御と関連していることが示唆されているが、その詳細は不明である。一方、植物の受容体による病原菌認識に伴って、細胞内ではMAPKカスケード(MAPKKK-MAPKK-MAPK)が活性化され、様々な免疫応答が誘導されることが知られているが、その制御下で、免疫遺伝子領域のDNAの脱メチル化が制御されているかは不明である。そこで、MAPKカスケードがDNAの脱メチル化に関与するかを明らかにするため、MAPKKの活性型遺伝子MKK4DDとMKK5DDの誘導系を用いて、MAPKの活性化に伴うDNAメチル化関連遺伝子の発現変動を解析した。その結果、AGO4やAGO6などDNAメチル化に関連する遺伝子の発現が減少することが明らかになり、これらの遺伝子発現の低下がDNAの脱メチル化を誘導していることが示唆された。実際、MAPKの活性化を誘導するべん毛タンパク質由来のペプチドflg22を処理した場合においても、AGO4などの遺伝子発現が抑制されることが明らかになった。さらに、AGO4のプロモーター領域には、WRKY型転写因子により制御されるW-boxが存在するため、AGO4の発現抑制は、MAPK-WRKYの制御系で調節されている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度、活性型のMAPKKを発現する植物体を用いた解析により、MAPKの制御下で、DNAメチル化に関与する遺伝子の発現が制御されていることを明らかにすることができ、当初の目的を達成することができた。また、それらの制御は、WRKY型転写因子を介して行われていることが示唆され、今後の展開に向けて重要な成果となった。
本年度、MAPKKの活性型遺伝子MKK4DDとMKK5DDの誘導系を用いて、MAPKの活性化に伴うDNAメチル化関連遺伝子の発現変動を解析したところ、AGO4やAGO6などDNAメチル化に関連する遺伝子の発現が減少することが明らかになった。このことは、MAPKの制御下で、DNAの脱メチル化が制御されていることを示唆している。また、AGO4のプロモーター領域には、WRKY型転写因子により制御されるW-boxが存在していた。このことから、AGO4の発現抑制は、MAPK-WRKYの制御系で調節されている可能性が示唆された。そこで、WRKY型転写因子のドミナントネガティブ変異遺伝子を導入した植物体(WRKY-SRDX植物)を用いて、WRKYがAGO4の転写抑制に関与しているかどうかを明らかにする。さらに、WRKY-SRDX植物を、MKK4DD植物あるいはMKK5DD植物と交配し、得られた植物体を解析することで、MAPK-WRKY-AGO4のシグナル系を明らかにする。また、生態系における病原菌感染を模倣するため、べん毛タンパク質由来のペプチドを複数回、処理したところ、AGO4の発現抑制が観察された。しかし、まだ予備的であるため、安定的なデータが得られる実験系を確立し、病原菌の二次感染が免疫のプライミング状態を誘導する機構を明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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