植物は、病原菌感染を繰り返し受けると、その情報を記憶し、病原菌の二次感染に対して、より迅速にかつ、より強く防御反応を誘導することができる(プライミング効果)。プライミングによる迅速な免疫遺伝子の活性化は、遺伝子領域のDNAの脱メチル化制御と関連していることが示唆されているが、その詳細は不明である。本研究課題では、病原菌認識に伴って活性化されるMAPキナーゼが、プライミングを誘導する分子機構に関して研究を行った。前年度のMAPKKの活性型遺伝子MKK4DDとMKK5DDの誘導系を用いた解析により、MAPKの活性化に伴い、AGO4などDNAメチル化に関連する遺伝子の発現が減少することが明らかになった。、AGO4のプロモーター領域には、WRKY型転写因子により制御されるW-boxが存在するため、AGO4の発現抑制は、MAPK-WRKYの制御系で調節されている可能性が示唆された。そこで、ネガティブに働く5個のWRKY遺伝子について、CRES-T法により、それぞれのWRKYの機能を抑制した植物体(WRKY-SRDX植物)を作出した。それぞれの植物体をMKK4DDあるいはMKK5DDの植物と交配し、両導入遺伝子をホモに持つ系統を作出し、MAPKの活性化に伴うAGO4の発現を解析したが、WRKY-SRDXによってAGO4の発現抑制が阻害される結果が得られなかった。そこで、AGO4遺伝子領域にクロマチン修飾の変化が生じている可能性を考え、AGO4の遺伝子領域のH3K27のアセチル化を解析した。その結果、MAPKの活性化に伴い、H3K27acのレベルが減少していることが明らかになった。このことから、AGO4の発現抑制が、MAPKの活性化によるH3K27acの減少によって生じていることが示唆された。
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