研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
16H01475
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 史憲 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (00462698)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境応答 / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
根から合成ペプチドを吸収させ、葉でのNCED3遺伝子の発現を調べる系を立ち上げ、複数の低分子ペプチドのスクリーニングを行った。その結果、4つのペプチドが、NCED3遺伝子の発現を上昇させることを明らかにした。次にこれら4つの候補ペプチドについて、気孔の閉鎖に対する生理活性を測定し、候補ペプチド1がABAと同様に、気孔の閉鎖に関わる事を明らかにした。候補ペプチド1は1 nMの低濃度でも、気孔の閉鎖を促すことから、非常に高い生理活性を持つことも明らかにした。次に、本実験のスクリーニング系で同定した候補ペプチド1の、根から葉への移動を確かめるため、安定同位体ラベルした候補ペプチド1を根から吸収させたのち、葉での候補ペプチド1の蓄積をLC-MS/MSを使って測定した。その結果、濃度依存的に候補ペプチド1が葉に蓄積することを明らかにした。またMS/MSスペクトル解析から、このピークが同位体ラベルした候補ペプチド1であることを確かにした。さらに遺伝子発現定量解析の結果から、候補ペプチド1は主に根で発現し、乾燥ストレス条件下では、根でのみ発現量が増加することを明らかにした。さらにCRISPR/Cas9法を用いた候補ペプチド1 mutantを作出し、これら植物体の乾燥ストレスに対する応答性を解析した。その結果、候補ペプチド1 mutantがNCED3遺伝子の発現量や、ABA蓄積量の低下を示すことを明らかにした。また候補ペプチド1 mutantはこれら応答の低下により、気孔の閉鎖が起こらず、水分蒸散量が高く、最終的に乾燥ストレスに弱い表現型を示すことを明らかにした。これらの結果は、候補ペプチド1がNCED3の発現を介したABA応答、乾燥ストレス応答に重要な役割を果たしていることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アブシジン酸(ABA)合成酵素の発現を制御する低分子ペプチドをスクリーニングし、目的とする候補ペプチド1を同定することに成功した。また、この候補ペプチド1は、微量な濃度でも、気孔の閉鎖などへの生理応答に影響を与えることから、植物体の水分ストレス応答において重要な役割を担っていることが示唆された。また、質量分析計を用いて、合成ペプチドが根から葉へ移動することも明らかにできたので、候補ペプチド1のような低分子ペプチドが、植物の維管束を使って、地下部と地上部をつなぐ移動性のシグナル伝達物質として機能していることも示唆することができた結果は、重要であると考えている。さらにCRISPR/Cas9法を用いて、候補ペプチドの遺伝子破壊変異体を作製できたことで、一段と本年度の研究解析を加速させることができた。この成果によって、mutantを使って下流遺伝子群の発現や、ABA蓄積量、乾燥ストレスに感受性を示すことを明らかにできたので、本研究課題は、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
候補ペプチド1はNCED3の発現やABAの蓄積量を制御し、乾燥ストレス応答に関わることを明らかにした。しかし、内在性の候補ペプチド1がストレス依存的に細胞外へ放出されたり、それに伴う根から地上部への移動に関して、より詳細な解析が必要である。次年度は、高感度質量分析計を使い、内在性の候補ペプチド1の検出、および同定を行う。候補ペプチド1は、非常に低分子なタンパク質のため、植物体からの抽出方法や、質量分析計で解析する前段階での精製方法に関して、いくつかの条件を検討する予定である。また候補ペプチド1が伝えるシグナルを受容する因子も存在するはずである。一般的にペプチドは、受容体タンパク質と結合し、そのシグナルを細胞内に伝えると考えられている。次年度には、候補ペプチド1を受容する受容体タンパク質の同定を試みる。また、受容体タンパク質は、リン酸化シグナルを使って、シグナルを細胞内から核へと伝達していると考えられる。候補ペプチド1-受容体タンパク質が制御する細胞内シグナル伝達系のメカニズムを解明する研究にも着手し、本研究を進めていく予定である。
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