サイトカイニン(CK)は植物の成長・発達の様々な過程の制御に不可欠な植物ホルモンであり、局所シグナルとして作用するだけでなく、維管束を介して長距離輸送され、器官間(長距離)シグナルとしても重要な役割をもつ。本研究では、CKの長距離輸送を介した個体統御メカニズムの解明を目指し、(1)CKの維管束への積み込みの分子メカニズムと(2)CK長距離輸送の生理的役割の観点からアプローチした。特に根から地上部への道管を介した長距離輸送に注目した。 (1)ABCG14はCKの道管への積み込みに必須の因子であるが、基質特異性や輸送方向などの生化学的特性や機能組織など、詳しい働き方は分かっていない。我々はT87シロイヌナズナ培養細胞に誘導発現コンストラクトを導入した実験系を構築し、ABCG14がCK前駆体の排出に関わることを強く示唆する結果を得た。またabcg14背景でABCG14を組織特異的に発現する形質転換体を用いて表現型の回復を評価した結果、ABCG14が維管束で働くことが道管へのCK積み込みに重要であることが示唆された。ABCG14は維管束でCK前駆体を細胞外に排出することにより、道管へのCK積み込みを司ると考えられる。 (2)根から地上部への道管を介したtZ型CKの輸送は、地上部の正常な成長・発達に欠かせない。道管液中の主要なCK分子種は前駆体tZRと活性型tZであるが、それらの生理的役割については不明であった。我々は、CK輸送・代謝系の変異体と接ぎ木を組み合わせることにより、tZRとtZの輸送の影響を区別して評価できる実験系を構築した。それにより、根由来のtZRとtZは異なった生理作用を持つことを明らかにし、論文化した。このようなCK分子種の使い分けは、環境変化に応じた個体統御システムを構成する重要なメカニズムの1つであると考えられる。
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