研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
16H01478
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 隆行 北海道大学, 医学研究科, 助教 (60374229)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共感性 / 幼若期 / ストレス / セロトニン |
研究実績の概要 |
共感性は、他者に対する理解を深め、円滑な対人関係の形成に重要な情動機能である。しかしながら、負情動に対する過剰な共感の高まりによって、二次的な外傷性ストレスを誘発し得るネガティブな側面も有する。本研究の目的は、幼若期における心身の過剰なストレスによって生じる情動機能障害モデルマウス(幼若期ストレスマウス)ならびにセロトニン2C型受容体ノックアウト(5-HT2CKO)マウスを用いて、共感性の変容または欠如に関わる中枢神経系脳部位の神経回路網(神経機能とシナプス形成ならびにこの基盤となる神経伝達物質とその受容体機能)について解明することである。本研究の初年度における実績として、マウスの共感様情動行動(情動伝染)の評価系を立ち上げ、幼若期ストレスマウスおよび5-HT2CKO マウスについて行動学的、電気生理学的ならびに神経解剖学的解析を行った。 幼若期ストレスマウスおよび5-HT2CKOマウスについて成熟期の情動伝染行動ならびに社会的行動を解析した結果、幼若期ストレスマウスは情動伝染が対照群に比較して有意に高く、5-HT2CKOマウスは有意に低かった。一方、社会的行動の1つである匂い嗅ぎ行動については、どちらのマウスにおいても有意に減少していた。この行動変容の関連脳部位ならびに神経機能について解析するため、前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex: ACC)と扁桃体基底核(Basal Amygdala: BA)における錐体細胞の活動電位およびシナプス電流について電気生理学的に解析した。その結果、幼若期ストレスマウスのBA錐体細胞の活動電位の発生頻度が有意に増大していた。また神経解剖学的解析では、5-HT2CKOマウスのBA錐体細胞における樹状棘突起の密度が有意に増大していた。一方、ACC錐体細胞についてはどちらのマウスにおいても有意差は見いだせていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の新知見を得たため。 1) 幼若期ストレスマウスは情動伝染が対照群に比較して有意に高く、5-HT2CKOマウスは有意に低い。 2) 社会的行動の1つである匂い嗅ぎ行動については、いずれのマウスも対照群に比較して有意に減少していた。 3) 幼若期ストレスマウスのBA錐体細胞の活動電位の発生頻度が有意に増大している。 また、本研究を通じて麻布大学、大阪大学ならびに自治医科大学の研究グループと情報交換および共同研究が開始できたため。
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今後の研究の推進方策 |
幼若期ストレスマウスおよび5-HT2CKOマウスにおいて共感性の源とされる情動伝染行動が変容しており、脳神経細胞の機能変化と相関する知見を得た。今後は因果関係を追究するため、情動伝染において選択的に活性化した神経細胞を可視化できる遺伝子改変マウスを用い、その神経活動およびシナプス伝達ならびに形態変化を解析する。さらに、ウイルスベクターによって脳部位特異的および神経細胞種選択的に5-HT2C受容体を回復できる遺伝子改変マウスを用いることで、情動伝染における5-HT2C受容体の機能的役割を検証する。
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