研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
16H01480
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西森 克彦 東北大学, 農学研究科, 教授 (10164609)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 平原ハタネズミ / 共感性 / オキシトシン / オキシトシン受容体 / 慰め行動 / 側坐核 / バソプレッシン受容体V1aR / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
1.OXTR遺伝子欠損ハタネズミの共感性行動測定 平成27年度、OXTR遺伝子欠損(OXTR(-/-))ハタネズミ開発に成功したが、CRISPR/Cas9法の特徴として、コード全体に及ぶ大きな欠損では無く、OXTR遺伝子中の小さな欠損やフレームシフトを生じた変異体であった。これら変異OXTR遺伝子由来のcDNAを調整し、別に開発していたTGFαshedding assayを適用、細胞へ導入発現後リガンドのOXTを投与、GPCR経由のシグナルが消失したこと、ヘテロ型OXTR KO平原ハタネズミの取得を確認した。これまで、これらOXTR(+/-)と(-/-)の繁殖に努めているが、出生率が極めて悪く、OXTR(-/-)ハタネズミを用いた共感性測定には至っていない。 2.共感性で活性化するハタネズミ脳領域の特定 野生型ハタネズミの共感性行動中の神経活性化(c-fos)領域の解析を行った。少数の個体を用い、ペアの雌へのフットショク後雄の共感性行動(慰め行動)を観察し、直後に脳を灌流固定、クライオスタットで調製した脳切片の抗c-fos抗体での免疫染色を行った。その結果、側坐核、MeAなどで神経活性化を確認できた。またOXTR遺伝子から発現検出の為、ハタネズミのOXTR遺伝子座のコード領域のN-末にCRISPR/Cas9法によりFlag Tagを導入を試みている。 3.共感性行動を含む、ハタネズミ向社会性行動の遺伝子基盤解析の為のリソース開発継続と供給 OXTR遺伝子座を狙った、平原ハタネズミ受精卵核中の依り巨大な遺伝子配列のマーカー挿入については現在も条件の検討を続けている。一方、OXTRと並んで、マウスや平原ハタネズミ、ヒトなどの社会性制御に大きな影響を持つと考えられる下垂体後葉ホルモンバソプレッシン(VP)受容体V1aRの遺伝子破壊に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一目標としていた共感性行動測定へのオキシトシン受容体欠損平原ハタネズミの投入計画は、元々平原ハタネズミの繁殖効率がやや低下していたことに加え、以下の状況から野性型、OXTR(-/-)型共に研究に投与出来る平原ハタネズミの取得が著しく困難とな理、進捗を阻む大きな要因となっている。 即ち、昨年末(2016年12月)に所属研究科旧研究棟から5kmほど離れた新設の研究棟への移設があったが、この際、ダニと蟯虫の駆除を余儀なくされ、これと移動による環境変化か原因と思われるが、移動後平原ハタネズミの高頻度な死亡や繁殖率のさらなる低下などが生じた。その後、こうした異変は徐々に収束し、現在は、ほぼ従前の繁殖効率にまで回復している。 一方、共感性研究に必要な平原ハタネズミ遺伝子操作技術の改善と新たな遺伝子改変ハタネズミリソース拡大については、Cas9発現ベクターや、同mRNAの代わりに生成レコンビナントCas9蛋白の導入により、これまでよりは安定した遺伝子変異効率を得られている。また、OXTRと並んで、社会行動制御と強い相関性が見出されているバソプレッシン受容体V1aRの遺伝子破壊平原ハタネズミ取得に成功した。これについてもV1aR変異候補ハタネズミから得たV1aR cDNAを新開発のin vitro受容体機能計測システムTGFαshedding assayに適用し、その活性が失われていることを確認出来、今後特に下垂体後葉ホルモン受容体遺伝子KOの確認実験に際して大きなツールとなるものと期待される。ハタネズミ脳内OXTR分布を簡便に検出する為の、OXTR N-末へのTag付加は、重点的に作製実験を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
繁殖低下に対する対策:昨年、新たなハタネズミ飼育ペア(12対24匹)を米国の共同研究者、Larry J Young博士より導入した。これらは、従来当研究室で飼育していた平原ハタネズミコロニー集団より繁殖率が高い。しかし、OXTR(+/-)平原ハタネズミやV1aR(+/-)平原ハタネズミは従来の低繁殖率コロニーに由来するため、現在及び今後、この新規導入平原ハタネズミ群と交雑を進め、繁殖率の上昇を達成する計画である。同時に野性型のハタネズミも依り入手出来やすい環境が整いつつあり、これにより野性型ハタネズミによる共感性行動時の解剖学的解析やOXTR(+/-)、V1aR(+/-)ハタネズミの増殖とOXTR(-/-)、V1aR(-/-)の取得、これらの共感性行動計測への投下が加速するものと考えている。また、同じく繁殖コロニーハタネズミ個体と新規輸入ハタネズミとの交雑による“遺伝子(血)”導入により、一回の受精卵取得操作で得られる欄の数が増加しており、今後CRISPR/Cas9法による新たな遺伝子改変リソース取得も依り効率化・加速するものと予測している。
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