研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
16H01481
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡ノ谷 一夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30211121)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 情動伝染 / ブンチョウ / ラット / オペラント条件づけ / 快情動 / 不快情動 / 局所電場電位 / ミスマッチ陰性電位 |
研究実績の概要 |
共感性に関連するミラーニューロンを探索するための行動学的・生理学的な要素技術の確立を進めた。 齧歯類についての研究では、ラットに認知バイアス課題を課し、情動伝染の内的過程を計測することに成功した。オペラント条件づけでラットを訓練し、ある信号音が呈示されたら右側のレバーを押して餌を得ること、もう1つの信号音のもとでは左側のレバーを押して罰(白色雑音)を回避することを学習させた(左右は任意)。これらの中間の曖昧音を出すと、ラットは左右のレバーをほぼ同じ比率で押した。実験に先立ち、ラットが電気ショックなど不快な文脈で発する22kHzの鳴き声を10分間呈示すると、罰回避のレバーを押す傾向が有意に高くなった。また、交尾などの快文脈で発する50kHzの鳴き声の呈示後では、餌を得るレバーを押す傾向が有意に高くなった。これらの結果から、ラットはコミュニケーション音を聞くことで、それが発せられる文脈の情動状態になることが示唆される。さらに、22kHzや50kHzのコミュニケーション音声を呈示することで、前帯状皮質から記録される局所電場電位が強くなることがわかった。 鳥類についての研究では、ブンチョウを飼育し、快情動(メスの交尾受入時など)において発せられるトリルと不快情動(縄張り争いなど)において発せられるトリルを録音することができた。これらの音声は、ラットで用いたような認知バイアス課題の計測に利用できる。快情動では帯域が狭く繰り返しの遅いトリルが、不快情動では帯域が広く繰り返しの早いトリルが記録された。さらに、ブンチョウの高次聴覚野に電極を刺入し、純音刺激やトリル刺激に対するミスマッチ陽性電位を記録することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
齧歯類(ラット)を用いた研究については、認知バイアス課題による情動伝染過程についての論文(Saito et al, 2016)、および局所電場電位によるコミュニケーション音声への応答に関する論文(Saito & Okanoya, 2017)を、海外の査読付き学術雑誌に掲載することができた。どちらも世界に先駆ける報告である。これらは、初年度としては十分以上の成果であると言える。 鳥類(ブンチョウ)を用いた研究については、認知バイアス課題に適切である刺激を記録することはできたが、これを用いたオペラント訓練には至らなかった。いっぽう、自由行動下のブンチョウの高次聴覚野からミスマッチ陰性電位を記録出来たのは大きな成果である。これらの成果については、できるだけ早い時期に論文化する必要がある。 鳥類の行動課題の遅れを除けば、全般に期待以上の進捗が得られた。これらの成果にもとづき、次年度は予定していたミラーニューロンの探索を開始することが可能である。以上の判断にもとづき、進捗は当初計画以上であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
鳥類のオペラント条件づけによる認知バイアス課題の確立、およびそれに基づく情動伝染の計測が喫緊の課題である。快情動・不快情動に対応した音声録音をしているが、コミュニケーション文脈での発声であるため、雑音が多い。音声自体は単純な周波数変調音なので、録音できた音声にもとづき、人工音を合成して使用することを検討している。 鳥類、齧歯類とも、無線による局所電場電位およびその加算で得られるミスマッチ陰性電位を得ることには成功している。しかしミラーニューロンの探索が究極の目標であるので、単一細胞記録を確立する必要がある。齧歯類(ラット)については、32チャンネルの記録システムを立ち上げる過程にある。鳥類(ブンチョウ)については、4チャンネルx2の記録システムを立ち上げる過程にある。 以上のように、本研究課題は、共感性のミラーニューロンを探索するという当初目標に順調に近づいていると言える。
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