共感性に関連するミラーニューロンを探索するための行動学的・生理学的な要素技術の確立を進めた。 齧歯類についての研究では、ラットに認知バイアス課題を課し、情動伝染の内的過程を計測することに成功した。実験に先立ち、ラットが電気ショックなど不快な文脈で発する22kHzの鳴き声を10分間呈示すると、罰回避のレバーを押す傾向が有意に高くなった。また、交尾などの快文脈で発する50kHzの鳴き声の呈示後では、餌を得るレバーを押す傾向が有意に高くなった。これらの結果から、ラットはコミュニケーション音を聞くことで、それが発せられる文脈の情動状態になることが示唆される。さらに、22kHzや50kHzのコミュニケーション音声を呈示することで、前帯状皮質から記録される局所電場電位が強くなることがわかった。これに対応するように、扁桃体ではノイズ呈示などの嫌悪事態と22kHz音声と両方に対応する神経細胞があったが、報酬呈示と50kHz両方に応答する神経細胞は確認できなかった。 鳥類についての研究では、ブンチョウを飼育し、快情動(メスの交尾受入時など)において発せられるトリルと不快情動(縄張り争いなど)において発せられるトリルを録音することができた。これらの音声は、ラットで用いたような認知バイアス課題の計測に利用できる。快情動では帯域が狭く繰り返しの遅いトリルが、不快情動では帯域が広く繰り返しの早いトリルが記録された。これらの2つの状況下でのトリルには明らかな音響学的差異があり、2つの音響パラメータで線形分離が可能であった。さらに、ブンチョウの高次聴覚野に電極を刺入し、純音刺激やトリル刺激に対するミスマッチ陰性電位を記録することができた。 以上のように、研究は順調に進んでいたが、研究代表者が平成29年度採択の新学術領域代表者となったため、本プロジェクトは同年6月29日をもって終了となった。
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