公募研究
本研究では、乳児の能動性に着目しつつ、共感脳の発達的基盤を明らかにすることを研究目標とした。具体的には、我々が開発した「デジタルおしゃぶり」や「モーションキャプチャ装置」など先端的な実験装置を活用して、四肢制御が未熟で運動レパートリーが少ない乳児でも能動的に参加可能な実験パラダイムを構築し、向社会的行動(援助行動)の発達的変遷を行動レベルと脳神経レベルの両者の点で明らかにすることが目論まれた。「デジタルおしゃぶり」に関しては、平成26年度から27年度の本新学術領域公募研究で基本プロトタイプが実装されており、当該年度ではこれをより精緻にデータが取得できるように改良しつつ、行動実験および脳活動計測実験が実施された。モーションキャプチャ装置を用いた実験に関しては基本的なシステム構成が完成した段階にある。具体的研究内容としては、以下の2つに要約できる。【研究内容1】Cshibra(2000)らの実験で用いられたCGアニメーションを元に、アニメーション中のCGキャラクターを「デジタルおしゃぶり」によって操作可能とした実験で、乳児が「助け行動」を示すかどうかを検証した。実験の結果一定の条件では「助け行動」と見なせる行動の存在が確認できた。【研究内容2】CGアニメーションを用いた社会的相互作用場面の刺激観察中の乳児およびの前頭部をNIRSを用いて計測し、CGで表現される相互作用場面の違いによって異なる脳活動が惹起されることが確認できた。これらの研究成果の一部は、国際会議において発表済み、あるいは、現在有力国際誌に投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
乳幼児はを対象とした認知科学実験では、基本的には実験者が準備した刺激を提示し、その反応を計測するという手法が主流であった。こうした実験パラダイムによって多数の興味深い知見が得られているが、一方向的に刺激呈する実験パラダイムでは乳幼児が有している「能動的側面」が考慮されていない。我々が開発した「デジタルおしゃぶり」は、四肢の運動制御が未発達の乳児でも口唇部運動が中心のサッキング行動によって制御可能であるためこれまでの乳幼児実験パラダイムを大きく変革する可能性がある。本研究で行った行動実験では、Csibraらによって行われた乳児の合目的的行動理解を研究するための(受動的)実験パラダイムを、「デジタルおしゃぶり」を活用することで乳児のを活かしたものとなっている。ここでは、Csibraらの実験で用いられたCGアニメーション中のCGオブジェクトを乳児のサッキング行動と関連づけることで、乳児がCGアニメーション中の(目的的に動く)キャラクターを「助けるか」が精査された。6ヶ月児20名を対象とした実験の結果、一定の条件のもと、CGオブジェクトを操作することで、アニメーション中のキャラクターの目的を「助ける」ことが明らかとなった。この結果は、これまで厳密に調べることが不可能とされてきた乳児の能動性を、「デジタルおしゃぶり」によって解明できることを示したものであり、今後の発展性が期待できる。この実験の結果は、現在国際有力誌に投稿準備中である。
今後は、デジタルおしゃぶりを用いた行動実験中の乳児の脳活動をNIRSを用いて計測し、受動的に観察している場合の脳活動と比較することで、社会的相互作用の評価や「援助行動」の萌芽を発達認知神経科学的観点から解明する予定である。課題としては、サッキングによるアーチファクトの除去、他の脳活動計測方法との整合性などが考えられる。乳児を対象とした実験実施に先立ち、成人を対象とした実験では前頭前皮質をターゲットとした実験を行っており、社会的相互作用の違いによって脳活動が異なることが明らかになっている。ここでは、Kanakogiら(2017)でお持ちいたCGアニメーション観察中の脳活動が計測されており、「攻撃」的場面で、弱者を「助ける」CGエージェントと「傍観」するエージェントの観察場面で右側背側前頭前皮質の活動が異なることが確認されている。「攻撃」的ではない文脈ではこうした違いが観察されないことから、弱者を助ける行動(の観察)に特化した脳部位の可能性がある。引き続き成人を対象とした脳活動計測と継続しつつ、同一刺激を用いた乳幼児の脳活動計測を実施し、社会的相互作用観察場面における認知神経科学的研究を実施する。加えて、「デジタルおしゃぶり」を用いて、社会的相互作用に自身が介入可能な実験中の脳活動計測を行う予定である。最終的には、社会的相互作用場面における「他者評価」と「自己の行動制御」を関連づけることで、向社会行動の発達的変遷を明確にする。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Brain and Cognition
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https://ardbeg.c.u-tokyo.ac.jp/ja/top/