本研究の目的は,研究代表者の研究室で開発した実験パラダイムを使用し,ラットを対象として,援助行動に関連する神経メカニズムを明らかにすることである. 本年度は,嫌悪的状況下に置かれた他個体に対する援助行動を示しているラットの神経活動について,ニューロンの活性化のマーカーであるc-fos遺伝子発現の免疫組織化学的染色を用いて検討した. ラットを,援助行動の獲得前期群,獲得後期群,統制群の3グループに振り分けた.獲得前期群と獲得後期群のラットについては,それぞれ,援助行動が2回出現するまで,90秒以内の援助行動が3回連続で出現するまで援助行動課題を実施した.統制群のラットには課題を課さなかった.援助行動に関連したc-fos発現を免疫組織化学的染色によって調べた結果,獲得後期において,前部帯状皮質のニューロンが活性化していたことが分かった.並行して検討した島皮質や扁桃体には,そのような活性化ニューロンの違いは認められなかった.このことは,前部帯状皮質が援助行動の獲得に関与する可能性を示唆している.また,c-fos発現の見られた前部帯状皮質ニューロンのうち,オキシトシン受容体を有しているニューロンの割合を検討したが,獲得前期群,獲得後期群,統制群の間で統計的な違いは認められなかった.この点については,今後他の部位についても検討し,より詳細を明らかにしていきたいと考えている. 前年度に引き続き実施した,DREADDシステムを利用したニューロン活性化の実験については,前年度と同様に,前部帯状皮質を実験的に活性化させることによって,援助行動の獲得が阻害されるという結果を得た.こちらについても,詳細なメカニズムの解明については今後の課題だと考えている.
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