研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
16H01491
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
小出 剛 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 准教授 (20221955)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マウス / 野生系統 / 進化 / 情動伝染 / 恐怖刺激 / コンソミック系統 / 量的形質 |
研究実績の概要 |
共感性は社会的生活を営む動物が生活していくうえで、他者と感情を共有して協調的な集団を形成するうえで重要な行動要素である。ヒトの共感性には個人差があることが知られており、遺伝的要因の関与が報告されているが、その遺伝子探索を目指した研究はまだほとんどなく、今後の大きな研究課題である。 共感性の遺伝的基盤の解明には実験動物を用いた研究は有効であるが、高度な社会的感情を示すヒトと比較して、マウスの共感性の存在はまだ研究が始まって間もない。しかし、これまでに、ヒトの共感性と進化的につながると考えられる「情動伝染」がマウスで報告されてきている。たとえば、ケージ内に入れられたマウスが恐怖刺激を受けることにより、隣接するケージにいる恐怖刺激を受けていないマウスも、すくみ行動などの情動反応を示す。 我々はこれまでに、この情動伝染について系統差が存在するか調べてきた。その結果、実験用マウス系統であるC57BL/6J (以下B6)よりも、野生由来系統であるMSM系統の方が、隣のマウスの恐怖刺激に対して、より強い情動伝染を受けることを見出した。この情動伝染がどのような刺激をもとに生じているか明らかにすることを目的として、刺激提示個体が恐怖刺激を受けている際の映像と音声を、その際の尿と共に提示すると、弱いながらも顕著な情動伝染を示すことを明らかにした。この結果は、今後刺激を個別に提示することで、情動伝染に関わる刺激情報の解明につながると期待される。 また、MSMとB6の情動伝染の違いに関わる遺伝子探索を行うことを目的として、遺伝子マッピングに有用なマウスリソースであるコンソミック系統を用いてを用いて情動伝染の系統差に関わる遺伝子座の特定を目指した解析を進めている。これまでに複数のコンソミック系統で情動伝染が確認されており、情動伝染に関わる遺伝子座の特定につながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、日本産野生マウス由来系統であるMSMが実験用マウス系統であるB6よりも顕著に高い情動伝染を示すことを明らかにした。さらに、情動伝染がどのような刺激をもとに生じているか明らかにすることを目的として、刺激提示個体が恐怖刺激を受けている際の映像と音声を、その際の尿と共に提示することで、MSMマウスに顕著な情動伝染を生じさせることに成功した。この結果により、今後は刺激を個別に提示することで、情動伝染に関わる刺激情報の解明につなげることが可能となる。 また、MSMとB6の情動伝染の違いに関わる遺伝子探索を行うことを目的として、遺伝子マッピングに有用なマウスリソースであるコンソミック系統を用いてを用いて情動伝染の系統差に関わる遺伝子座の特定を目指した解析を進めており、複数のコンソミック系統で情動伝染が確認されている。今後、情動伝染に関わる遺伝子座の特定につながると期待される。これらの結果から、ほぼ順調に研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、日本産野生マウス由来系統であるMSMに、刺激提示個体が恐怖刺激を受けている際の映像と音声を、その際の尿と共に提示することで、観察しているMSM個体に顕著な情動伝染を生じさせることに成功した。今後は、映像、音声、匂いの刺激を個別に提示することで、情動伝染にどのような刺激情報が関わっているのか解明していく また、MSMとB6の情動伝染の違いに関わる遺伝子探索を行うことを目的として、遺伝子マッピングに有用なマウスリソースであるコンソミック系統を用いて情動伝染の系統差に関わる遺伝子座の特定を目指した解析を進めてていく。特に、これまでの解析で複数のコンソミック系統で情動伝染が確認されていることから、これらの染色体のさらに狭い領域を有するサブコンソミック系統を用いて解析を行うことで、情動伝染に関わる遺伝子座の解明を目指す。
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