共感性は社会的生活を営む動物が生活していくうえで、他者と感情を共有して協調的な集団を形成するうえで重要な行動要素である。これまでに、ヒトの共感性と進化的につながると考えられる「情動伝染」がマウスで報告されてきている。たとえば、ケージ内に入れられたマウスが恐怖刺激を受けることにより、隣接するケージにいる恐怖刺激を受けていないマウスも、すくみ行動などの情動反応を示す。 我々は、この情動伝染について系統差が存在するか調べた。その結果、実験用マウス系統であるC57BL/6J (以下B6)よりも、野生由来系統であるMSM系統の方が、隣のマウスの恐怖刺激に対して、より強い情動伝染を受けることを見出した。この情動伝染がどのような刺激をもとに生じているか明らかにすることを目的として、刺激提示個体が恐怖刺激を受けている際の映像と音声を、その際の尿と共に提示すると、弱いながらも顕著な情動伝染を示すことを明らかにした。この結果は、刺激を個別に提示することで、情動伝染に関わる刺激情報の解明につながると期待された。そこで、刺激を個別に提示する実験を行った。映像、音声、匂いの刺激を個別に提示したところ、マウスは匂いと視覚刺激をもとに情動伝染を示すことが明らかになった。 また、MSMとB6の情動伝染の違いに関わる遺伝子探索を行うことを目的として、遺伝子マッピングに有用なマウスリソースであるコンソミック系統を用いて情動伝染の系統差に関わる遺伝子座の特定を目指した解析を進めた。その結果、複数のコンソミック系統で情動伝染が確認された。コンソミック系統は同一系統の個体を繰り返し解析することが可能なため、これらの情動伝染の違いを示す系統について、さらなる遺伝子マッピングが可能になる。将来的には遺伝子同定を目指した解析に結び付けたいと考えている。
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