研究実績の概要 |
数秒単位の時間認知を司る神経基盤を解明するための第一歩として、本研究ではショウジョウバエを用いた時間条件付けの確立を目標とした。これまでに研究代表者のグループは、ショウジョウバエに電気ショック罰を提示する系を用い、感覚刺激の時間処理に取り組んでおり、電気ショック罰を伝達する神経細胞を複数同定してきた経緯がある。そこで本研究で行う時間条件付けにも、刺激提示時間を正確にコントロールできる電気ショック罰を選択した。しかし、電気ショックに対するショウジョウバエの行動応答はジャンプ、歩行、横転、など高速かつ多岐にわたり、その時間変化の定量的な解析は困難であった。 平成28年度はこれら電気ショックに特有の技術的な問題を解決するため、短い露光時間、低ノイズ、高フレームレートでビデオ撮影する実験系を構築した。また、行動中のショウジョウバエをコントラストよく撮影するため、当研究室で開発した透明電極をショックの提示に用いて(Vogt, eLife 2015)、8つのチャンバーを同時撮影する実験系を構築した。さらに東北大学情報科学研究科の橋本浩一教授との共同研究で新たなマシンビジョンアルゴリズムを開発し(Thoma, Nature Comms 2016; Sirigrivatanawong, Sensors 2017)、これまで困難であったジャンプや横転など電気ショック応答を含む6つの異なる行動状態を、撮影された動画より自動認識することに成功した。これにより数十ミリ秒単位での行動の時間遷移を、高精度かつ高速に分類することが可能となり、刺激の提示間隔に合わせた条件反射行動の検出が可能となった。
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