時間条件付けでは、無条件刺激(報酬もしくは罰)の提示を一定時間間隔で繰り返し、提示後の一定間隔で発現される行動を条件反射と定義する。平成28年度に構築した、ショウジョウバエに電気ショックを提示しその応答を高解像度で記録する行動実験系、および画像データの解析系を用いた。また時間間隔に依存した条件反射を、電気ショック提示に伴う非特異的なものと区別するため、同強度の刺激を同回数、不定間隔で与えるコントロール実験を合わせて行った。 はじめに刺激の提示回数、刺激の提示間隔の二つの変数を変化させ条件検討を試みた。その結果、2秒間隔で刺激を10回繰り返し与えた際に、電気ショック応答の一つであるジャンプ行動の増加が、訓練終了後の刺激予想時間に観察された。本研究では、トレーニング後にみられた行動変化が刺激提示間隔に合わせたものであるかを定量するため、ジャンプ発生頻度の時系列データに対し時間周波数解析を行った。時間周波数解析では周波数成分の時間変化を解析できるため、条件反射の発生時間まで特定することが可能である。時間周波数解析の結果、実験群ではコントロール群に比べて、刺激提示間隔(2秒)を周期とする周波数成分の値が(0.50Hz)、訓練開始時から訓練終了直後まで高くなっていた。これはショウジョウバエが2秒という時間間隔を学習し、定間隔の条件反射(ジャンプ)を獲得したことを示している。本研究結果は無脊椎動物の微小脳にも計時機構が備わっていることを示唆する初めての研究である。
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