研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
16H01497
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
寺尾 安生 杏林大学, 医学部, 教授 (20343139)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経科学 / 時間情報処理 / 大脳基底核 / 小脳 / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
本研究では時間処理能力の異常を神経疾患、特に大脳基底核の機能異常を認めるパーキンソン病(PD)、小脳機能の異常を認める脊髄小脳変性症患者において、①異なる長さの音(S1,S2)を2つ聞かせ、その後にどちらの音が長いか判断させる課題(時間認知課題)、②ある長さの音を聞かせた後、同じ長さの時間を再生させる(同じ時間だけボタンを押す)課題(時間再生課題)、③ある一定の間隔(ISI)で鳴る音にあわせてPCのキーボードをタッピングさせる課題(同期タッピング課題)の三つを行った。同期タッピング課題では短いISIでは音に合わせてタッピングするのは容易だが、ISIがのびると(1-2秒以上)音に合わせてボタン押しができなくなる(この境界となるISIを時間的統合の限界とよぶ)。 正常者14名、PD患者16名で時間的統合の限界を検討したところ、PDと健常者では有意に差がないが、PDの軽症群(UPDRS-III 15以下)では健常群に比べて限界値は延長していた。他方、中等症以上の群(UPDRS-III 16以上)では短縮する傾向があった。時間認知課題ではPD患者はS1の長さを健常者に比較して長く評価する傾向があった。時間的再生課題では、PD患者は提示された4秒以下の時間の長さを実際より長く評価する傾向があったが、4秒以上の時間の再生では健常者との差はなかった。 小脳疾患患者では時間的統合の限界は小脳症状の程度に関係なく、正常人と比較し有意に短かった。25例の脊髄小脳変性症の患者群で同期タッピング課題を行ったところ、多系統萎縮症群では時間的統合の能力が他の脊髄小脳変性症病型(脊髄小脳変性症6型、31型、マシャド・ジョセフ病)の群に比べて低下していた。以上から小脳疾患、大脳基底核疾患とも時間的統合の限界が異常となること、小脳、大脳基底核の障害の程度により時間的統合の限界が影響されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パーキンソン病をはじめとする大脳基底核疾患や脊髄小脳変性症など小脳機能障害のみられる神経疾患において、時間的情報処理の異常を調べることによって、大脳基底核、小脳が時間的情報処理、とりわけ時間的統合の限界にどのように関わるかを調べることができた。現在、健常者において時間的情報処理にかかわる神経構造を検討するため、脳波/脳磁図(EEG/MEG)、磁気刺激を用いた検討を行うための基本的なセットアップを行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
健常者において、以下の二つの方法により時間的情報処理、とりわけ時間的統合にかかわる神経構造について検討する。①各課題を施行中の脳活動を脳波/脳磁図(EEG/MEG)で検討し、どの脳領域が時間的情報処理課題の遂行、とりわけ時間的統合の情報処理に関わるかを明らかにする。②被験者が時間的情報処理に関わる課題を行っているさまざまなタイミングで、大脳皮質の各部位を磁気刺激した場合に、課題遂行能力にどのような影響が出るかを調べることにより、各領域がどのような役割を果たしているかを調べる。
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