ある一定の間隔(ISI)で鳴る音にあわせてキーボードをタッピングする課題(同期タッピング課題)を用いて、脊髄小脳変性症患者(純粋小脳型の臨床症状を示すSCA6、SCA31の患者)、および多系統萎縮症(MSA)患者における時間情報処理を検討し、パーキンソン病(PD)の課題遂行能力と比較した。PD患者においてはタッピングのタイミングが音に対して少し早くなる傾向が見られた(negative asynchrony)のに対し、SCD患者ではnegative asynchronyを認めず、音のタイミングを中心にボタン押しのタイミングがばらつく所見を認めた。さらに小脳・大脳基底核双方の機能異常を併せ持つMSA患者では大脳基底核の障害を呈するPD群、純粋小脳型の臨床症状を示すSCD群の両方の異常の特徴が認められ、最も高度の異常を示した。ISIが2-3秒以上になるといずれの群でも、ボタン押しは音のタイミングより遅れるようになった。同期タッピング課題の遂行に大脳皮質がどのように関与するかについて検討するため、タッピング課題施行中の正常人において、様々なタイミングで経頭蓋磁気刺激を行い、タッピングの遂行能力がどのように変化するかを検討した。同時にタッピング課題中の手指の動きを動作解析システムにより記録し、その変化についても検討した。刺激強度は運動野における閾値の強度より20%上の強度とし、タッピングの予想されるタイミングの400ms前から400ms後の様々なタイミングで各大脳皮質領域上で刺激を加えた。運動直前のタイミングで運動野など一部の皮質領域を刺激することにより、タッピングのタイミングが磁気刺激をした場合に、しなかった場合と比較して早くなる現象を認めた。この知見は時間的な引き込み現象の神経生理学的な基盤について示唆を与えると思われる。
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