研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
16H01498
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡ノ谷 一夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30211121)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 後部帯状回 / 計時行動 / 電圧感受色素 / ラット / オペラント条件づけ / 遺伝子発現 / arc遺伝子 |
研究実績の概要 |
後部帯状回後脳梁膨大部(GRS)第二層に時間遅延を作る神経細胞のカスケードがあり、10秒以上にわたる長い計時行動は、このカスケードにより可能になるという仮説(遅延カスケードモデル)を実証することが本研究の目的である。 本年度は、主に2つの作業を行った。1つは、これまで行ってきた実験のまとめとしてJournal of Neurophysiologyに投稿した論文(ラット後部帯状回後脳梁膨大部の電圧感受色素による抑制性・興奮性シナプスの回路解析)の改稿作業とそのための追加実験である。追加実験は「カスケードではなく1/2層および3/4層のジグザグ進行をしているのではないか」という質問に対して、1層直下に水平の切り込みを入れても1層刺激が2層の水平伝播を起こす現象は消失しないことを示した。「2層刺激でも1層刺激と同様な興奮伝播が生ずるのか」という質問に対して、2層の直接刺激でも活動の水平伝播が起こることを示した。また、「水平伝播はGRSに特異的な現象なのか」という質問に対して、V1(視覚野)の刺激ではそのような現象は起こらず、刺激箇所近傍で活動は停止してしまうことを示した。 もう1つは、arc遺伝子の発現の時間発展性を利用して時間地図を作ろうとする試みである。ラットを計時が必要な固定時間スケジュール(FI)と計時が不要な変動時間スケジュール(VI)で訓練し、FIにおいてのみ、計時行動に関連したスキャロップパターン(餌呈示時間が近づくと応答が増加する)が現れることを示した。このように訓練したラットを訓練直後に脱脳し、arc遺伝子の発現がFI訓練群のみでGRSに強く見られるかどうかを確認したい。現在、arc遺伝子の発現を可視化する最適なパラメータを探索しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
後部帯状回脳後梁膨大部(GRS)の電圧甘受色素を使った回路解析の論文の改稿作業に予想以上の時間がかかってしまった。これは、追加実験を3つ要求されたことによる。しかしそれによって論文全体の完成度はさらに向上したと言える。平成28年度末現在、ほぼ改稿が完了し、再投稿の準備を進めている段階である。 並行して進めた遺伝子発現の実験では、まず行動課題の確立が完了した。ほとんど同じ行動課題でありながら、計時を必要とする課題と必要としない課題で行動の差異を定量化することができている。試験研究として行った電気ショック後時間を変えることでの遺伝子発現について、軽微ではあるが時間の影響が見られているので、これをより明瞭に可視化する必要がある。 さらに、計時行動に関連するGRS全体の電気生理活動を32チャンネルの無線単一細胞記録システムで記録するための準備も進めることができた。以上より、本研究はおおむね順調に進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の論文化を進めると共に、時間地図の可視化・機能的計測実験を進める。論文化すべきは、GRS損傷による痕跡条件づけの障害、GRSによる計時の電気生理学的証拠についての研究と、時間算出課題にともなうGRS神経活動パターンの比較についての研究である。どちらも実験自体は完了しているが、結果の整理と論文執筆を進める必要がある。 時間地図の可視化については、arc遺伝子発現の手法をさらに改良することで可能であると考える。時間地図のための行動課題は、現在のFI対VIの比較のみならず、5秒の産出と30秒の産出の違い等も検討する必要があろう。時間地図の機能的計測については、32チャンネルの記録システムによりGRSの層全体を計測すること、および第二層についてできるだけ広範に記録し、計時行動との関係をみることを検討する。
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