後部帯状回後脳梁膨大部(GRS)第二層に時間遅延を作る神経細胞のカスケードがあり、10秒以上にわたる長い計時行動は、このカスケードにより可能になるという仮説(遅延カスケードモデル)を実証することが本研究の目的である。 本年度は、昨年度に引き続き、主に2つの作業を行った。1つは、これまで行ってきた実験のまとめとして投稿した論文の改稿作業とそのための追加実験である。追加実験では、1)1層直下に水平の切り込みを入れても、1層刺激が2層の水平伝播を起こす現象は消失しないことを示した。さらに、2)2層の直接刺激でも活動の水平伝播が起こることを示した。また、3)V1(視覚野)の刺激では水平伝播は起こらず、刺激箇所近傍で活動は停止してしまうことを示し、この現象がGRSに特異性を持つことを示した。さいわい、追加実験の意義が認められ、論文はJournal of Neurophysiologyに発表された。 もう1つは、arc遺伝子の発現の時間発展性を利用して時間地図を作ろうとする試みである。ラットを計時が必要な固定時間スケジュール(FI)と計時が不要な変動時間スケジュール(VI)で訓練し、FIにおいてのみ、計時行動に関連したスキャロップパターン(餌呈示時間が近づくと応答が増加する)が現れることを示した。このように訓練したラットを訓練直後に脱脳し、arc遺伝子の発現がFI訓練群のみでGRSに強く見られるかどうかを確認する予定である。これまで市販のarc遺伝子のプローブを使って実験していたが、発現が思わしくなかった。このため、arcのプラスミドを開発した米国ジョンズ・ホプキンス大学のP. Worley博士よりプラスミドの譲渡を受け、arc遺伝子の発現を可視化する最適なパラメータを探索しているところである。 しかしながら、本プロジェクトは代表者が平成29年度採択の新学術領域代表となったため、打ち切りとなった。
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